彼方へ
18
「ガブリエル様…!」
ウ゛ラディスの部屋から呪印に蝕まれる身体を引きずるように出て来たガブリエルは
彼を心配して追って来たのであろう、アンナ・ベルに会った。
だが、ガブリエルにはアンナ・ベルに先ほどの非礼を詫びることは勿論、アンナ・ベルの名を呼ぶ事すらできずに。
再び意識を途切れさせた。
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「ほう?その年でかの呪印を完成させたというのか。」
「いや、発動はしたが相手を捕らえるまでに消滅した。完成はしていない。」
「それは珍妙な事だ。…ふむ、どうやらお前さんの獲物は天使の守護をどこかでほどこされているようだな。」
「天使…だと?」
「ああ。しかも大天使…それも大天使の頭目クラスだろう。
発動されたものを瞬時に押さえ込む力を持っているのだからな。」
「…。」
「まあいい、だが独学でそこまで完成された呪詛を行えたのだ。
並ならぬ才能をお前さんが持っている事に疑いはない。」
「では…。」
「いいだろう。教授を引き受けよう。」
カタン
「お前さん、名前は?」
「ウ゛ラディスラウス・ドラクリア。」
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(守護を…ガブリエル。)
(ミカエル、心配はいらない。)
(そうか…守ってくれたのはお前だったんだな。)
波が引くように、痛みが薄れていく。
自分を縛り付けていたものが霧が晴れるように消えていく。
ガブリエルは、うっすらと眼を開けた。
「ミカエル…。すまない。」
(俺は…役に立てなかった。)
…ているのに。
(え…?)
「ガブリエル様、お気がつかれましたか?」
アンナ・ベルの声に、ガブリエルは意識を彼女に向ける。
浮かびかけた言葉を掻き消すように。
「アナ…。…あ
あ、先程は失礼しました。何度も…貴女には迷惑を…。」
人の仮面を付け直すガブリエルに今度はアンナ・ベルが切りかかってきた。
「そのような事より、お教えください…ガブリエル様…!
兄の部屋で…何を見られたのですか…!?」
「…アナ…。」
ガブリエルは哀しげな瞳でアンナ・ベルを見つめた。
彼女は…どれほどこの事実を悲しむだろう。
だが、何もなかった事にはもう出来ない。
あの場所に描かれていた魔法陣…ガブリエルの記憶に間違いはないだろう。
この身にほどこされた呪印とは異なるものだ。
そして…。
ガブリエルは寝床に横たえられていた身体を起こし。
事実が告げられるのを震えながらも気丈に待つアンナ・ベルの手をそっと取った。
そして彼女の手に静かに口づける。
「…ガブリエル様…?」
アンナ・ベルはガブリエルの行動に不思議そうな顔をする。
ガブリエルは、ゆっくりと口を開いた。
「アナ。よく聞いてください。今すぐ、ご家族とともにこの城を出るのです。
ウ゛ラディスが戻る前に…!」
「!」
「兄君は…今あなたに話すことはできないが、危険な計画を企てている。
だから、その前に、貴女方が危険に及ぶ前に。」
「そんな…!では、貴方はどうなさるのです?」
「私はこの場に残ります。ウ゛ラディスを止めなければいけない。」
その言葉に、今度こそアンナ・ベルは驚愕した。
「何を…何をおっしゃっているのですか!?それこそ私たち一族の責任ではないのですか!!?
何故他人である貴方が…!」
「それが私の…。」
そこまで言ってガブリエルはいちど言葉を切った。
そして、改めて言った。
「それにアナ、気付かれていませんか?」
「何をです!?」
「貴方は身篭られている。亡くなられたご主人のお子を…。」
「…え…?」
To be Continued…
うはは。変な所で切れました。
書けばかくほど微妙な変更を余儀なくされてます。
私は楽しいですが…。