彼方へ
第二部
13
「ヨフィエル?!」
アンナ・ベルの部屋にいたマルクを追って来たのは。
ガブリエルの忠実なる従者であり、アンナ・ベルにとっては父の命の恩人だった。
「マリー…頼みが……か…はッ…!」
ヨフィエルが用件を言おうとすると、突然ヨフィエルは血をはいた。
「!?」
その姿を見て驚いたのはマルクだ。
ヨフィエルの様子は急ぎ焦ってはいたが、怪我や病を患っているようには見えなかったからだ。
「ヨフィエル!?一体何があったんだ?その血は?!」
だが、ヨフィエル自身には分かっていた。
(ミカエル様…の…!)
ミカエルの言の葉の力だ。
それによりガブリエルを助ける言葉を発しようとした瞬間、喉に傷が与えられたのだ。
この瞬間から、ヨフィエルが地上に存在できる時間も限られた。
ヨフィエルは地上から消されていく自らの力を振り絞り。
ちかづいてきたマルクの肩に触れた。
「ヨフィエ…?」
『聞くんだ、マリー。』
突然頭の中に直接響いてきた目の前の男の声に、マルクは再度驚愕した。
「な…?!」
これは、何だと思うまもなくヨフィエルの声は続けられる。
『私には もう ガブリエル様の手助けを許されない 』
「なんだって?」
『理由を説明する 時間は ない よく聞くんだ。
敵は望みは あの方だ。』
「な…?!」
『守ってくれ あの方を…。』
そこまで言葉が聞こえたと思った瞬間。
ヨフィエルの姿は掻き消えた。
「ヨフィエル?!」
「ヨフィエル様?!」
何が起こったのか。
マルクも、そしてアンナ・ベルも目の前の出来事に呆然とした。
「…一体…何が…。
目的が…ガブリエル…って。」
マルクは必死で情報を整理した。
愛ゆえに神にそむいた、アンナ・ベルの兄。
彼を殺すためにヴァチカンに協力を求めるガブリエル。
その手助けを…強制的に絶たれたヨフィエル。
そして自分を一瞬で眠らせたガブリエルの能力。
掻き消えたヨフィエルの姿。
悪魔の現れたというトランシルバニアにいる敵。
そこに向かったガブリエルと仲間…。
そして父。
「…貴女の兄さんは…まさか…。」
そして、ガブリエルは…まさか本当に…。
「大天使ガブリエル…智天使ヨフィエル…。」
アンナ・ベルも蒼白になった。
「ガブリエル様…お兄様…。」
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GAAA!!!
「ぐっ…!!」
「伯爵!!」
突然ヴァレリアス伯を襲い掛かってきたのは、ウルフマンだった。
間違いない、ヴラディスラウスの眷属だ。
ヴァレリアス伯は咄嗟に剣でウルフマンの牙を防いだ。
カキィン
必死でウルフマンの猛襲を弾くと、ヴァレリアス伯は体制を立て直す。
「この…化け物が!我が城に……っ。」
激しい怒りをこめてウルフマンをにらみつける。
ウルフマンの瞳は薄いブルーだった。
「覚悟!!」
剣を構え、ウルフマンの出かたを伺う。
ウルフマンに真っ向から立ち向かう伯爵に、ガブリエルは危機を感じ
伯爵を制さなければと、声をあげた。
「伯しゃ…!!」
だが、その瞬間。
扉という扉、入り口という入り口から何十人もの影が現れた。
「うわ!!」
ウルフマンの出現に気をとられていた聖騎士団たちも面食らう。
「ダスティ、銀の矢尻はつけているな?!」
「あ、ああ!」
何十人もの影は牙を向いて襲ってきた。
すべてヴァンパイアだ。
ガブリエルも驚き、敵をいなしながら状況を整理した。
(これは…ヴァレリアス城の使用人たちか…!)
見知った顔も何人もいる。
なんの罪も無い彼らまで、人でなくしてしまっていた。
予想出来ていたこととはいえガブリエルは思わずにはいられなかった。
あの晩に自分が決断していれば。
「すまない…!」
ザシュッ
ギャアアァア……
ガブリエルは神の剣を振るった。
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「…?!」
そして伯爵は、吸血鬼たちが自分を襲ってこないことを不思議に感じながら。
ウルフマンへの警戒をしかと向けていた。
だが。
ウルフマンは動きを止めていた。
「なんだ…?」
じっと自分を見つめてくる。
薄いブルーの瞳で。
その眼は、息子と同じ…色…。
その一瞬伯爵は信じられない思いに至る。
「…まさか…?」
一瞬、ウルフマンは眼を見開いた。
「ラドゥラス…?」
ドスッ
肉に何かが刺さる音がした。
To be Coentinued…
まだまだアクション。
…に見えないですけど…。
難しいですよね、動きを文章で表現するの…。
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