彼方へ




第二部


16


一人取り残されたガブリエルはわずかに残る意識の中、ラドゥラスの遺体を見ていた。
傲慢で己を甘やかし人を思いやれぬ人間…。

だが、ただ大事なもののために怒ることの出来る人間だった。
そして…死なせてしまった…人間…。

「…ド…。」


「ガブリエル!」

バン、と突然部屋の扉が開いた。

そこにいたのはハロルドとダスティ、そして…ヴァレリアス伯だった。
3人は縛り付けられぐたりとするガブリエルを見て驚いた。

そして、まだ生きていた、と安堵もしていた。


「無事だったかガブリエル!」
「今鎖を切ります!」
ガブリエルに駆け寄る二人。

そしてヴァレリアス伯は…床に倒れ付す影を見て、愕然とした。

「……!!」
ヴァレリアス伯はそれが息子であることにすぐ気付いた。
そしてゆっくりと、ラドゥラスの傍に跪く。


「伯爵?どうかしたのか?」

「……。」

ダスティの質問に、伯爵は答えなかった。


「ガブリエル?!どうしたんです!」
その間にガブリエルの鎖に刃を立てていたハロルドは、
異常に消耗している事に気付く。

ガブリエルは今にも意識を失いそうな状態だった。
まだ毒はガブリエルの体に多く残っている。

ガブリエルに投与された毒は命を奪うことはなくとも、
体力を奪うに十分な力を持っていた。

そのわずかな意識の中、せめて鎖は…と、ハロルドに言った。


「…私の、剣…で…。腰に…ある…。」
「?ですがガブリエル、あなたは腰に剣は…。」

装備していなかったはず、という疑問はハロルドの視線が腰にいったときに霧散した。


そこには小ぶりの短剣がささっていたのだ。


ハロルドたちが知ることはなかったが、それはガブリエルの剣だった。


ガチャリ、と音を立て鎖は外された。

「ガブリエル!」
だが自分で体を支えることも出来ず、くずおれる。


ハロルドはその体を受け止めた。

「大丈夫なんですか?!」
「私は…大丈夫だ…、時間がたてば毒は消える…。

 それより…!!」

気付いた時には、遅かった。


ヴァレリアス伯の姿はそこにはなかった。

そしてラドゥラスの遺体には…ヴァレリアスの紋章の入ったロザリオが握られていた。



#########

その頃 ヴラディスラウスは、テラスにある魔方陣の中に居た。

「…ラドゥラスめ…やっかいな傷をつけてくれたものだ…。」
今の自分の体にたった一つ傷をつけられる毒血。
それを持っているのが使役するウルフマンであることは、体に残るルシフェルのかけらが教えてくれた。

だが…使役している間は、と油断していた。


おろかな弟の意志の力を見くびっていたのだ。

「…ふん…。」



「ヴラディスラウス…!!」


「!」


背後から聞こえてきた声に、ゆっくりと振り向いた。


「父上。よくお帰りになられました。」


ヴラディスラウスは少し微笑んで言った。


父の姿にしかと向き合って。


これが最後の親子の会話になるだろう。

その確信を持って…。


######

「お…追ってくれ…!ヴァレリアス伯が、危ない…!!」

ヴァレリアス伯が既にヴラディスラウスのもとに向かったことを知ったガブリエルは、
体の力を振り絞り出口に向かおうとする。

無理なのは分かっていても。

「無茶ですガブリエル!その体では…。」
「落ち着けよ!」

必死で動こうとするハロルドとダスティの腕を振り払うこともできずに。


そのとき、二人の背後から忍び寄る影があった。



「侵入者…殺す。」

気付いた時、いつの間に入ってきたのか
この城のかつての執事が、剣を振り上げていた。


しまった、と思った時。
既に彼…クロムウェルは吸血鬼の超人的なスピードで二人の背後に居た。


「「「!!」」」



ザシュッ!



肉の切れる音がした…だが。

次の瞬間、クロムウェルはその場に絶叫を上げて倒れた。

その隙を逃さず、ハロルドはクロムウェルに止めを刺した。



そこにいたのは…。


「ハロルド…ダスティ…それに……よかった…無事で…!」


聖騎士団ロイ部隊最後の一人、マリーだった。




                                     To be Continued…


超鈍足小説、ようやくマリーも合流です。
これから大事なお役目を果たしてもらいます。

多分あと2話か3話で第二部終了…のはず。

もし覚えておいででここまで読んでくださった方、いらしたら心より感謝いたします!!
まだまだVH大好きです…!!



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