彼方へ
第二部
17
「マリー…?!何故ここに。」
ハロルドは驚きの声を上げるが、またマリーも倒れているガブリエルに目を見開く。
「ヨフィエル殿が…。」
「っ!」
ヨフィエルの名を聞くとガブリエルが反応する。
マリーに手助けを頼めば、ヨフィエルの身も無傷ではないはずなのに。
「…ヨフィエル…は…。」
ガブリエルはマリーに問う。
マリーは、目の前で起こった出来事をそのまま話すべきか躊躇った。
しかし。
「…消えた。私と…アンナ・ベル様の目の前で…。」
「…そう、か…。」
ぐ、とガブリエルは拳を握った。
その様子をどう捕らえたものかマリーたちには明確には分からなかったが。
それにしても、ガブリエルの消耗は異常だった。
「ハロルド、ガブリエルは何をされたんだ?」
「…毒を盛られたようだ。命に別状はない、とガブリエルは言われているが…。」
「このままじゃ、オレたちも身動きがとれないな…。
伯爵が危ないってのに…。」
「マリー…ここへ…!」
「え?!」
ガブリエルは突然マリーを呼んだ。
マリーはハロルドに一瞬視線を向け。
ハロルドは頷く。
そして、マリーはガブリエルの傍に跪いた。
「私に…何か。」
答える前に、ガブリエルはマリーの腕を掴んだ。
瞬間、掴んだ場所から光があふれる。
「!!」
突然の眩さにマリーは目を閉じた。
そして次に眼を開くと。
小さな光の結晶がガブリエルの手のひらに浮いていた。
その奇跡のような現象を、ハロルドもダスティも呆然と眺めた。
そしてガブリエルはその光の結晶を両手で胸に抱きしめる。
また、光があふれた。
今度はさらに強く。
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「このように二人で話すのはいつ以来でしょうね、父上。」
ヴラディスラウスはテラスの手すりを歩いていた。
その様子は軽やかで…人の出来る動きではなかった。
ヴァレリアス伯は改めて思い知った。
息子がすでに人間ではないことを。
「ヴラディスラウス…お前はどれほど私たちを憎んだのだ…。」
何故、ここまで…全てを壊すほどの力を望んだ…。
そしてこの家の全てを壊した…。
すると。
心外だ、という顔をしてヴラディスラウスはテラスの石畳の上に降りた。
「…私は貴方を嫌ったことなど一度もありませんでしたよ。」
「?!」
父は息子の言葉にはっと顔を上げた。
ヴラディスラウスはテラスの外に視線を向けると。
口を開く。
「覚えておいでですか、父上。
まだ私が少年の頃…領地の散策にともに連れて行ってもらったことがありましたね。」
忘れるはずもなかった。
初めて息子をともなって見せた自分の護る地。
「貴方が見せてくださった大地はとても美しかった。
そんな地を護るあなたをそれは誇らしく大きく見えたものです。」
「…ヴラディスラウス…。」
その言葉は確かに彼の本音なのだろう。
だが。
「たとえ貴方が母上のなさることに口を出さずとも、
貴方が私を見なくとも。」
ずきり、と胸が痛んだ。
それはヴァレリアス伯のまぎれもない罪悪の源。
彼の冷酷な感情の源…。
「…すまな…。」
「勘違いなさらないで下さい、父上。
私が行動を起こしたのは貴方には関係ありません。」
「?!」
ヴァレリアス伯の謝罪を遮ったのは、意外な言葉だった。
突然、ヴラディスラウスの姿が消えた。
「私は、ただあの存在が欲しかっただけ。」
次の瞬間、すぐ耳元で息子の声が聞こえた。
「私は あなたを 愛してましたよ。
…父上。」
「ヴラディ……!!」
言葉が終わった瞬間に、殺気が伝わる。
それに反射的に反応した伯爵は、背後のヴラディスラウスに剣を振り。
ドスッ
息子の胸に、突き立てた。
「…!!!」
息子はうすく微笑んでいた。
「…ヴラディス…ラウス…。」
「いいえ…ヴァレリアス伯爵…もうここにはいないのですよ、貴方の息子は…。」
息子だった私は。
「……。」
ヴァレリアス伯は絶望に表情を染めた。
その感情が心地よく吸血鬼の身に流れていく。
ヴラディスラウスは、目を閉じ。
ひとつ、息をついた。
そして。
胸につきたてられた剣を自らの手で抜くと。
父の手から奪った。
「さようなら、ヴァレリアス伯爵。」
「……。」
父の目に剣の光がうつった。
To be Continued…
早めに続きが書けてわれながらほっとしてます;
それにしても3話連続でコロシて続くって…なんつー殺伐としてるんでしょうか。
ま、まあとりあえず第二部あと少しです!
今回はずっと書きたかった父と息子の会話シーンがようやく出来て満足ですvv
いつもながら読んでくださった方、ありがとうございます!!
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