彼方へ
第二部
19
「はあっ!」
キィイイン
「くっ…。」
打ち合いはほぼ互角だった。
互いに隙を見せず、にらみ合うように刃を叩きつける。
意外だった。
ガブリエルは油断をしていたつもりはなかったが、ヴラディスラウスの力は思った以上に強い。
ミカエルの剣を持ってしても、勝負は容易にはつかなかった。
「…っ、素晴らしいなガブリエル…それが大天使の力か…。」
「……っ…。」
ガブリエルはヴラディスラウスの後ろであの存在が笑ったように感じた。
それは恐怖だった。
#####
「くっ…。」
「急げ、ダスティ!」
がたり、がたりと階段を大きな鏡が移動していく。
鏡の表面には触れないように注意しながら。
この鏡の向こうに永遠の氷城があることは信じられないことではあったが。
今、3人にそれを疑う時間は残されては居なかった。
「早く…しないと、ガブリエル…っ。」
「くそっ!どっちの階段だ!」
だが、急ぐにはこの城は広い。
上であることは分かりながらも、最短の道を見つけることができてはいなかった。
その時。
ふわり、とマリーの肩を風が通った。
「?!」
なぜ、この屋内でと顔を上げると。
そこに見知った顔があった。
「ヴァレリアス伯爵!無事だったのか!」
#####
ガッ!!
「うっ…!」
ガブリエルの一撃で、ヴラディスラウスの剣が宙を舞う。
同時に、ヴラディスラウスは膝を折った。
体制を立て直した時、ヴラディスラウスの首筋にガブリエルの切っ先が突きつけられていた。
「覚悟を…ヴラディスラウス・ドラクリア…。」
「ふっ…。」
その言葉に、ヴラディスラウスは鼻で笑う。
次の瞬間。
ヴラディスラウスの背に、巨大な蝙蝠の羽根が現れた。
「!」
羽音の轟音と共に突風がガブリエルの身体を跳ね飛ばした。
「ぐあ!」
ダンッと激しい音を立て手すりに叩きつけられる。
痛みを感じながらも眼を開けると。
すぐ傍に、ヴラディスラウスがいた。
そして今度は彼がガブリエルに剣を突きつける。
「…ヴラディス…。」
小さな声で名を呼ぶと、ヴラディスラウスは口の端をあげた。
ドスッ
「!!」
突然ヴラディスラウスの背に矢がつきたてられた。
不意打ちに衝撃を受けたヴラディスラウスはガブリエルに突き立てていた剣を落とす。
「ガブリエル!!」
「早く、ここへ!」
ヴラディスラウスの後ろに視線を向けたガブリエルは、鏡の扉を持った聖騎士団の面々に気付く。
「来たか!」
「な、に…?!」
ヴラディスラウスは体制を立て直すと後ろを振り向こうとした。
だが、次の瞬間再度背に矢が刺さる。
今度はハロルドのナイフも刺さってきた。
「ぐ!」
それはヴラディスラウスに致命傷を与えるものではなかったが、隙を作るには十分だった。
ガブリエルは、自らの剣を手に呼び寄せた。
ミカエルの剣をとりに行く時間はない。
チャンスはこの一瞬だった。
その一瞬、ふとマリーの目に映ったもの。それは。
「伯、爵…?」
ここまで自分たちを案内してくれた伯爵の遺体だった。
そういえば、前を進んでいたはずの伯爵が居ない。
では。
「あ…!」
再度、マリーの目に伯爵の姿が見えた。
その姿がガブリエルの目にも映った。
「…っ…!」
一瞬生まれた躊躇いは、切っ先を鈍らせた。
ザクッ
「ぐ、ああ…!!!」
その切っ先はヴラディスラウスの腹部を捕らえた。
「う…。」
ヴラディスラウスの身体から力が抜けていく。
久しぶりに全身に感じた痛みと、苦しみが彼の意識を侵食していった。
そして程なく意識を完全に失った。
「今だ!早くガブリエル!!」
ハロルドはチャンスを見過ごさず声を張り上げる。
ガブリエルはヴラディスラウスの体を担ぎテラスの入り口に置いた鏡の扉へ向かった。
ヴラディスラウスの意識と体が回復しきる前に。
そうすれば、殺さずにすむ。
死なないですむ…。
扉の前へたどり着いたガブリエルはヴラディスラウスの体を足元から鏡の扉へと押し出した。
「……!」
じわり、と押し込んだ場所から鏡の姿が変わっていくのを聖騎士団たちは驚きの目で眺めていた。
そして、肩まで入った時。
ガブリエルは小さく呟いた。
「さよならだ…ヴラディス…。」
マリーはその切なげな姿に、ガブリエルの傍に来ると慰めるように肩に触れた。
その時。
目が開かれた。
To be Continued…
なんやかんやでやっとここまで来ました!
あと一話で第二部終了です…どこまで長引かせてるんだか;
ここまで読んでくださった方、ほんとうにありがとうございます!
あとヴァレリアス長老の亡霊はゲームにも登場してたのでここで使わせてもらいました。
まだまだ活躍する…かも。
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