彼方へ


第二部


3


あの日からの記憶は不思議とはっきりしていた。


操った召使たちの血を次々とすすり、飢えを満たしながら。


これから起こるべきことを冷静に測っていた。

神の使いであった彼が、1年も前からここに…自分の側に訪れていたのなら
天の主にはこの所業は既に知れているだろう。

だが、この1か月の間それが現れる気配はなかった。
おそらく自分を止めることが出来なかった彼自身に事を成させるのだろう。




(ならば、好都合というもの…。)




ワイングラスに注がれた血は。


先ほど手に掛けた母のものだった。


小煩いだけの存在になってい母エリディアの血を。
かつては憎しみを抱いていたが今はそんな感情を思い起こす気にもならない。

醜い欲に酔い。貧るように自分の薄っぺらい理想を求め。
彼女は夢を見ながら最愛の息子に殺された。



ヴラディスラウスの目の前には、「最愛の息子」が意識を失ったまま鎖につながれている。


ふと、ヴラディスラウスはそれを見る。


すると。



「あ…に、うえ…。」


「ほう、気がついたかラドゥラス。」


最愛の息子は 化け物に姿を変えて

最愛の母を殺した。


その記憶はまだ残っているようで。
人に戻ったラドゥラスの心を苛んだ。

「私が…私が、母上を…!!
  
 ぐ、あああ…。」


「次の満月まではあと数日…安心しろ、そのうち苦しまなくなるからな。」

「おのれ…その前に、貴様を…!!」

ラドゥラスは目の前の存在に、目のくらむような怒りを感じた。
こいつが、私に母上を殺させた。

「殺す…ころして、やる…!!」


「あははははは…いい顔だ、ラドゥラス。
 
 私が知る中で最も人間らしい顔をしているぞ。

 今までのような母上の綺麗なお人形でなく、おまえ自身の感情で憎悪を噴出させている。」

  


楽しそうに、楽しそうにヴラディスラウスは笑った。


その笑い声が途切れる前に。

ラドゥラスの意識は消えていった。


「GRRRRRR…。」


ヴラディスラウスの目の前に居るのは、一匹の狼男…。



「ふん…『彼』の残したものは随分と役に立つ…。」


ヴラディスラウスはそう呟くと、グラスの血を飲み干した。



繋がれた血は、他の何よりも彼に力を与えていった…。



########


「ガブリエル様!!」


ヴァチカン。

ヴァレリアス伯に状況を告げた翌日、ガブリエルはピウス2世のところに行く前に、アンナ・ベルの部屋を訪れた。


「お久しぶりです、アナ。
 お体の具合はいかがですか?」

「私の事より…!!ガブリエル様、兄は…、兄はどうなったのですか?!
 それに母とラドゥラスお兄様は…!?」

「アナ…それについては今貴女に説明はできません。
 ですが…これだけは約束します。
 兄上…ヴラディスは必ず私が救います。
 貴女はどうか、そのお腹の子を無事に出産することに専念してください。
 貴女の身の上はヴァチカンが保障いたします。」

それだけ言うと、ガブリエルはきびすを返した。

だが、アンナ・ベルが納得するわけはなかった。

「待ってください!!ガブリエル様!
 そんな…何も知らされないで…そんなことできません!
 私に出来ることはなにもないのですか!?」

「貴女に出来ることは、子どもを生み守ることです。
 貴女は貴女の血を守ってください。

 それが私の…私たちの望みです。
 そして貴女だけができることです。」

力強い言葉だった。
それはアンナ・ベルの心のそこに響き。

「…ガブリエル様…必ず、戻ってきてくださいませ…。」



アンナ・ベルはそれだけを口にした。




それ以上は言えないと 思った。


                                      To be Continued…



やっと「ドラキュラ伯爵」が登場。
無理矢理な設定もまた登場です…ああ、すみません。

いろいろと無駄な設定を考えてましたのでもう文章ぐちゃぐちゃです…。
でも一応予定通り話はすすんでます。

わかりづらい話になってすみません…。

って今日ヒュー様の誕生日!!
忘れてました…おめでとうございますvv 


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