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「これは…!」
地上のヴァレリアス城へ降り立ったガブリエルの目に入ったのは。
明らかに闇に満ちた渦。
あの渦は前にも見たことがある。
「…間違いない…ヴラディスは…。」
そこまで呟くと、ガブリエルは急いで城に入った。
あの渦が現れているということは、もう時間はない。
自分が最も力を発揮できる月の巡りまではあと数十分あるが…。
待ってはいられないのだ。
ガブリエルが門に入ろうとしたその時。
「ガブリエル様!」
耳慣れた声が聞こえた。
「ヨフィエル?!何故ここに…。」
「ミカエル様の命で追って参りました。
私も、お供を…!」
「ヨフィエル…。だが、これは私に課せられた任だ…。
一人で行かせて欲しい。」
彼は忠実な部下だ。
だからこそ、今は一緒には行けない。
ルシフェルが来るのであれば、ガブリエルの全力をもってしても退かせることは難しい。
そうなれば、ヨフィエルの安全の保障などできない。
それに…。
「これは、私がするべきことなんだ。頼む…ヨフィエル…。」
ヨフィエルは、主人の言葉に、一息ついた。
この天使は誰よりも優しい…そんなこと、最初から分かっていたのだ。
だから、最初から断られることも分かっていたのだ。
だがヨフィエルはせめて、彼の役に立ちたかった。
「わかりました…ではガブリエル様、私はヴァレリアス家の人間の救助にあたります。
…よろしいですね。」
多分、自分の出来ることはこれくらいだった。
ガブリエルはその言葉に、優しく笑った。
「…すまない。頼んだぞ。」
「御意に。」
そしてヨフィエルは地下に。
ガブリエルは…ヴラディスラウスの元に走った。
#############
「ヴラディス!!」
魔法陣の描かれたテラス。
そこには彼の母と弟の変わり果てた姿と…。
彼が、いた。
彼はゆっくりと振り向いた。
「やあ、ガブリエル。」
彼はいとおしそうに…ガブリエルを見つめた。
「ヴラディス…。」
ガブリエルは悲しみを隠せなかった。
「おや…泣きそうな顔をしているのだな…?
誰に苛められたのだ?」
ヴラディスラウスは泣く子をあやす様にガブリエルに近づき、その頬に触れた。
「ヴラディス…どうして…こんな…。」
ガブリエルは今更と思っても聞かずにはいられなかった。
なぜ…ここまで悪魔に魅かれたのだ。
なぜここに来るまでに…私に…友であったはずの私に言わなかったのだ…。
「何故こんなことを…!!」
ヴラディスラウスはガブリエルの言葉に苦笑する。
「何故…か。やはり残酷だなお前は…。」
「…!」
ヴラディスラウスは、瞳に悲しげな色を見せた。
「何度も言ったはずだ、ガブリエル。
私はお前を愛している…誰にも渡したくはない。」
「…それは…。」
「だがお前は…アナを…妹を選んだ…。」
「?!」
ガブリエルは突然考えてもいなかった事を言われ、困惑した。
「私が…アナを…?」
「ふん…今更隠し立てをすることもないだろう?
子を成し…結婚まで決めたそうじゃないか?」
(何を言っているのだ?私が、アナと?)
ガブリエルはヴラディスラウスの誤解を知らなかった。
何故、アンナ・ベルは誤解を解かなかった?
ミカエルもいたはずなのに何故?
「違う!アナの子供は…!!」
声を上げるガブリエルを、ヴラディスラウスは片手をあげて制した。
「もう今更だろう。後戻りはできない。
なあ、ガブリエル?」
「…!!」
ヴラディスラウスの言うことは酷なほどに真実だった。
もう、後戻りは出来ない。
彼の罪は明らかであり…もう、すぐそばまで「かれ」が近づいている。
ガブリエルがとるべき行動は、ひとつしか残されていなかった。
「ガブリエル……もう大丈夫だ。
もうすぐお前は私だけのものになる。
もう誰にも邪魔されることなく…。
誰にも…誰にも…渡しはしない…。」
「…ヴラディス……。」
ガブリエルは一筋、涙をこぼした。
悪魔を呼び出すまでに…ここまでに彼を行動させたのは…自分であったと。
たとえ…「かれ」の目的があったとしても…。
「さあ、おいで。ガブリエル…。」
こぼれる涙をそのままに、ガブリエルはヴラディスラウスのもとに近づいた。
渦が近づいてくる。
風が強くなっていく。
嵐のようなその風の中。
ヴラディスラウスはガブリエルに口付けた。
愛してると、言葉よりも純粋な想いをこめて。
ガブリエルはその口付けに初めて応えた。
「ヴラディス…愛してる…。」
伝えよう、ひとつの真実を。
だから。
どうか許して。
ドスッ
「!」
気づくと、ガブリエルの手に現れた剣が、ヴラディスラウスの身体を貫いていた。
ずるりと、ヴラディスラウスの身体が倒れていく。
見開いた目は、目の前の人物を見据えた。
「ガブ…リエル……。」
薄れるヴラディスラウスの視界に、ガブリエルと…その背中に羽根が見えた。
その瞬間。
風が一際強く、吹いた。
To be Continued…
ちょこっと書き加えました。
どうも抜けてたことが多かったし…。
すみませんです。
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