彼方へ





トランシルバニアに客人が来てから数週間。
確かな変化が訪れていた。


ヴラディスラウスは文学、芸術は勿論あらゆる学問に造詣が深いガブリエルとの会話を繰り返し。
今までにない楽しさを感じていた。
そして、ガブリエルも、予想以上に深い知識と高い意識を持つヴラディスラウスと話し関わることを
好ましく思った。


そして、今日も二人は図書室に篭り。
文学の話に花を開かせていた。

「どうも私はトルバドゥールには賛同できん。」
「そうか?私は嫌いでないがな。
 恋を精神の飛翔ととらえるのは神にも似ていると思うが。」
「ふふ…ガブリエルは存外ロマンチストなのだな。」

「そうか…。」
ガブリエルはヴラディスラウスの言葉に少し驚いて。
そして、笑った。
「ほめ言葉として受け取っておこう。ヴラディス。」


二人はいつしか親友のように近しい関係になっていた。
自分より位が高いはずのガブリエルは畏まってるのは似合わないからと
名をそのまま呼ぶようにヴラディスラウスに頼んだ。

ヴラディスラウスには断る理由もなく。
いつの間にか呼ばれていた略称もすんなりと受け入れていた。


そんな満たされた空間を。
ヴラディスラウスにとって忌むべきものが乱入してきた。


「まあガブリエル様、このような所においででしたの?」


現れたのは、ヴラディスラウスの母親だった。
年に似合わぬ派手なドレスを着てムダに着飾っている様子を見ると。
どうやらくだらないパーティに「公爵家」のガブリエルを誘おうとでも思っているのだろう。

ヴラディスラウスは心の中でそんな虚飾にまみれた母を蔑み。
口を閉ざした。

この人に何を言おうとも、耳に入れないのは分かっているのだから。


「これは奥方さま。なにか私に御用ですか?」

ガブリエルは先程ヴラディスラウスに向けていたのとは違う。
とても「社交的」に飾った笑顔を奥方に向けた。

「ええ。これから広間でパーティを催しますの。
 ガブリエル様にも是非ご出席していただきたく存じまして。」

予想通りの答えだった。

「ああ、そうだったのですか。」

「さあ早く参りましょう。
 ヴラディスラウスがこのような場所にお引き留めいたしまして。
 大変失礼いたしました。
 何分礼儀の知らない子で…。
 人の気持ちも顧みずに行動してしまいますのよ。
 本当に申し訳ありませんわ。」


ガブリエルが返答する間もなく奥方エリディアはまくし立てるように息子を蔑む言葉を口にした。
この言葉はあまりにも自然に吐き出されていた。
この人は、日常的に長男を本人の目の前で卑下し、他人に媚を売ってきているのだと。
嫌でも分かる口調だった。

そんな様子に、ヴラディスラウスはいつものことだと、席をはずそうとした。
このまま母親が自分の悪口をガブリエルに言い続けるのを聞くのは…。
他の誰に言うよりも、辛い。
無意識のうちにヴラディスラウスはそう感じていた。


その時、ガブリエルの腕がヴラディスラウスを引き止めた。

「いえ、奥方様。
 私は今ヴラディスラウスとの会話を楽しんでいます。
 せっかくの申し出ですが、私としましてはこのままここでご子息とお話をしていたいのですが…。」

「…!」
ヴラディスラウスは驚いてガブリエルの顔を見た。

ガブリエルは、振り向いたヴラディスラウスに、柔らかく微笑んだ。

「まあ…!でも、皆様ガブリエル様のお越しを待っておられますのよ?」
ガブリエルの答えに、奥方は慌ててなんとか引き止める。

「ええ、大変失礼ではあると思いますが…。
 私は少々疲れておりますので…、皆様のお楽しみに水をさす事になるでしょう。
 私の事など気になさらず、どうかお楽しみください。」
ガブリエルの答えは、翻す事の不可能な強さを感じさせた。
それを意識下で理解したエリディアは、この場を諦めなければいけないことを悟った。

当然このまま戻れば「公爵家の美男子」を求めているほかの客人方を失望させ。
自分の面子がつぶれてしまうことは分かりきっていたが。


「そうですか…残念ですわ。」

これ以上無様にうろたえる前に。
エリディアの不自然に高いプライドが、この場を去ることを選択していた。




「…本当に…物好きな奴だな…ガブリエル…。」

「そうかもしれないね。」

二人になってから、二人は同時に笑った。


このときから、ヴラディスラウスは漠然とあった意識を予感に変えていた。


自分は、彼を離せなくなると。



#############


「ああもう、何だっていうの?!
 どうして私がこのような恥を!!
 ヴラディスラウスよ!ヴラディスラウスがガブリエル様をたぶらかしたんだわ!!」

その夜、エリディアは自室でヒステリックに叫んでいた。
思ったとおり、ガブリエルに出席させる事の出来なかったエリディアは、客たちに失望の眼を一斉に向けらた。
そしてそのまま、パーティは解散となったのだ。

そのことがエリディアに耐えられないほどの屈辱を浴びせていた。

「なんということかしら!!ガブリエル様はヴラディスラウスに洗脳されたのよ!!
 ああラドゥラス!!なんとかしなければいけないわ!!」

「母上…。」

ラドゥラスは、母の姿に困惑し。
そして、兄にその原因があることを悟った。
そしてラドゥラスは、兄に罰を与えなければいけないと。
思い込んだ。


母の言うがままに。


彼はそうすることしか知らなかったのだ。



                                 To be Continued…



HMVにてヴァンヘルシングDVDの予告映像を見たおかげで
創作意欲ばしばしです!!(笑)
複雑っていったけど思ったより単純なヴァレリアス家の事情。
もうちょっとひねらないといけませんね…。
にしても受けくさいっす…ヴラディスラウス…。(苦笑)


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