彼方へ





「不調法な場をお見せして申し訳ない、ガブリエル様。」

狂気の瞳を一瞬垣間見せたヴラディスラウスが走り去った後。
父、ヴァレリアス伯はガブリエルに謝罪した。

「いえ、気にしてはいません。
 ラドゥラス殿、お怪我はありませんか。」
ヴァレリアス伯の言葉に答えながら、ガブリエルはまだ硬直したままのラドゥラスの様子を見た。


「……。」
ラドゥラスはガブリエルの言葉も耳に入らず。
眼を見開いたままでまだ立ち上がることはおろか指1本動かせない様子だった。
だが、特に怪我をしている様子は見受けられない。
それだけを確認すると、ガブリエルは先程ヴラディスラウスが走り去って行ったほうを見つめた。


(…今…この男は彼に何を吹き込んだのだ…?
 先程の眼は…ただごとではない。)


だが、おかしい。
ここに来て1月半。ヴラディスラウスと意図的に長く過ごしてきたガブリエルだったが。
先程のような狂気を見たのは初めてだった。
元より悪魔に魅入られし者への監視と警告を与えるためにこの地に降り立ったのだが。
今までのヴラディスラウスの様子を見る限り、悪魔に関係しているとは思えなかった。
だからこそ、先程のヴラディスラウスの様子にガブリエルは驚きを隠せなかった。

とはいえ、元凶であろうラドゥラスに直接問い詰める事もできまい。

聞けば答えるだろうが…下手にヴラディスラウスに刺激を与える結果になりかねない。

ここは様子を十分に見ておくことが必要だと、ガブリエルは思った。


########


その晩。私室にてまどろむガブリエルを、起こす影が居た。


「…なんだ?」

うっすらと眼を開くと、月明かりに輝く金の髪が眼に入った。

「起きるんだガブリエル。」
「ミカエル?!」
夜間にも関わらずガブリエルはつい声を上げてしまった。

「静かにしろ。ここは人界だ。忘れたのか?」
冷静に響くミカエルの声。

「ああ、間違いなく人界だな。
 間違いなのはお前の存在の方だろう…。」
ガブリエルは頭痛を感じたように頭を抑え、とりあえずの文句をミカエルにぶつけた。

「それで?お前が直接来るなど普通あってはならんことだろう。
 何かあったのか?」
大天使の座につくものが、他の大天使とはいえ任務中の天使に伝言を請け負うことはまずないといっていい。
配下の天使に任せるなり、直接思念を送るなり他の方法はいくらでもあるはずだ。
そうであったから、ガブリエルの疑問はごく当たり前であった。

「…いや、今回の来訪は個人的見解によるものだ。」
「……は?」

ガブリエルは心底驚いた。
この大がつくほどの真面目な友人がプライベートで人界に、しかも任務の最中の自分の所に降りるとは。

驚きの表情を全面に見せるガブリエルに、ミカエルは心中で苦笑した。

そして、ガブリエルの手をとるとその甲に十字をきった。

「…守護を。ガブリエル。」

その言葉に、ガブリエルは悟った。
この友人は、自分を心配して来てくれたのだ。
彼は何かを感じ取っている。それが自分に関することで。
自分に災いが降りかからないよう、剣の守護をガブリエルの身に与えたのだ。

「何事もないよ、ミカエル…。
 大丈夫だ。私は必ず帰るさ。」

ガブリエルは今ミカエルに言えるただ一つの約束をした。

ミカエルはその言葉に、納得したように。

「その言葉が果たされる日を…待っている。」

それだけ言うと、ミカエルは立ち上がり。
それ以上の事は何も言わずに去っていった。





                                   To be Continued…




ついにヴァン・ヘルシングDVD発売です!!
発売日即購入なんて初めてですね。速攻で見たのがNG集って…おい。
とりあえずゆっくり見て、感想は後々しっかり書こうと思ってます。
今回は短いしヴラディスラウス全く登場してないしで申し訳ないです。
年内に続き…書くよう頑張ります。


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