彼方へ


23


「決心はついたようだな、ガブリエル。」

「ああ…。」
分かっていた事だ。最初から…。


「準備は任せるがいい。ヨフィエル。」
「はい。」
ミカエルの背後に、壮年の紳士が瞬時に現れた。
彼はガブリエルの方を向き、深く敬礼をする。

ガブリエルにとっては旧知の部下であり、天界においての信頼する側近だ。

「ヨフィエル…。」
彼を連れてきていたのは驚いたが、ほかの者に頼めなかったのも分かる。
ほかの者では、秘密裏に動いてきてくれたミカエルの行動が明るみに出る可能性がある。

そうなれば、罪は自分だけでなく…。

「ガブリエル様…。なんと弱られて。
 もうご安心を。私が責任を持ってあなた様を天界にお連れします。」
ヨフィエルはガブリエルに跪き手をとった。

「すまないな…ヨフィエル。」
お前にまで被せることになりかねないのに、とガブリエルは申し訳なく思う。

「いいえ…いいえ。」


「ヨフィエル、早くするのだ。」
ミカエルの冷静な声に、ヨフィエルは立ち上がる。

「失礼いたしました。ではガブリエル様、少々お待ちを…。」

「待ってくれミカエル。

 せめて…せめてこのヴァレリアス家の人々も避難させてほしい。」


「…難しい相談だな、ガブリエル。」
ガブリエルの言葉に、ミカエルは難色を示した。
秘密裏の行動の負担となることは目に見えている。
もちろんそれはガブリエルも重々理解していることだ。

「……分かっている、だが…!!」
だからといって、このままこの城にいては戻ってくるヴラディスラウスが何をするか分からない。

犠牲など出したくない。
出させたくもない。


「全員は無理だ。ガブリエル。」



「…っ。」



「だが、一人なら可能になる。」

「な…!!」


残酷な選択をつきつけた。
ミカエルにはその自覚があった。
そして、その選択は今、この場でガブリエルにさせるわけにはいかなかった。


ミカエルは誰よりもガブリエルを知っている。
この残酷な選択を早急に決めることなど
決してできないことを。

ミカエルは黙って、ガブリエルの額に手を当てる。
その瞬間、ガブリエルはミカエルの意図を知った。

「ミカエ…!!!」

ガブリエルは、その場で意識を失った。






すると、ドアの外からガブリエルを呼ぶ声が聞こえた。
「ガブリエル様?」

アンナ・ベルだった。

ミカエルはその場で、選択をした。


「ヨフィエル。」
「…!よろしいのですか?」

「ヨフィエル。二度は言わない。」
「……御意に。」

ヨフィエルは、ドアを開けると。
驚いた目で自分を見つめたアンナ・ベルの意識を奪った。


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「何とおっしゃいましたの?」
「ええ。ですから…ガブリエルをつれて帰ります。
 アンナ・ベル殿もお連れしたいと、ガブリエルが言っているもので…。」

「ま、まあ…そうですの…。」
「では、妹はガブリエル様の妻に…と、そう考えてもよいのですね?」


「?…ああ。」
ミカエルは今いる二人の意図をすぐに理解した。

本来話すべき城主・ヴァレリアス伯はまだ戻っておらず。
ガブリエルたちをこの城からつれる報告は、この二人…奥方であるエリディアとその息子、ラドゥラスにするしかなかった。

そしてミカエルは、二人に報告に来たのだ。


ミカエルは、二人が勘違いしていることにすぐに気づいた。
そして 否定しなかった。



そう思わせた方が都合がよいと思ったからだ。

「それは本人同士の意思を問わないことには。」
声に有無を言わせない力を込めて、ミカエルは言った。


「あ、あら…まあ、そうですわね。」
「それは、尤もです。」

その力に、二人が抗えるわけはなかった。



夜。ミカエルの乗せた馬車は、ヴァレリアス家を去り。


その翌朝に、ヴラディスラウスは戻った。


悲劇を起こすために。



                                 To be Continued…



サイト引越し後で久々の更新なのに短くてすみません。
これでやっと前説完了って感じですか…。
ちなみにヨフィエルは大天使ガブリエルが率いている智天使のリーダーです。
別にガブリエルの側近てわけではないんですがなんとなく登場。

しかしガブリエルはどこでも愛されてるなあ。総受け思考でまくりです…。

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