彼方へ

第三部



「ゾフィエル、参りました。」

 ミカエルの謁見所に一人の智天使が姿を見せる。

 

 「ヨフィエルはどうだ?」

 ミカエルの問いに、智天使はかすかに眉を動かす。

「私の問いにすら返答はありません。回復には今少し。」

「そうか。」

ミカエルは短く答えた。

だが、内心では歯噛みする思いだった。
例によるものとは言え…そして御主の命でも、自らの言魂がヨフィエルを傷つけた。

そして親友は。
かすかに手をにぎりしめ、ミカエルはゾフィエルに改めて視線を向けた。

「ゾフィエル。こたびは私から命を発する。
 氷の扉を開けよ。」


それでも一度出された言魂は消えることはない。
だが、一つだけ手はある。



それは禁じられたことであるが。



「御意。」


それでも助けたい。



#########





「ん…。」





何度も繰り返された交わりの後。
ガブリエルはゆっくりと意識を覚醒させた。

鉛のような体の重みを感じながら、周囲に目を向けた。
今まで片時も自分を放そうとしなかった相手の姿は見えない。

どこに行ったのか、と思いながら、自分のいる場所に改めて目を向けてみた。
考えればこの氷の城をはっきりと意識して観察するのは、これが初めてだった。

(ここが…果ての牢城…。)
意識とともに記憶がよみがえる。
ここはかつて堕天したルシフェルをとらえるための場所だった。

そこに、自分がいるとは。
不名誉なことだと嘆く余裕も今はあまりない。
ぼんやりと記憶をたどるのが精一杯である。


体に目をやると、いたるところに手形や吸い痕が見える。
尋常ならぬ吸血鬼の力で愛された証しだった。

それを見るだけでも。

ずきりと心が痛む。


しかしなおガブリエルを打ちのめす事実があった。


それは。




「起きたか、ガブリエル。」

「…っ。」

聞こえてきた声に肩を震わせた。

「よく眠っていたな。天使にも眠りは必要らしい…。
 最初の時も、よく眠っていた。」

楽しげでどこか恍惚と唱えるような口ぶりで、言葉を紡ぐ。
幸福に酔っているように。

いや、事実彼は幸福だった。


ガブリエルはゆっくりと振り向く。


「……ヴラディス…。」

所在のない弱い声を出すと、彼…ヴラディスラウスはにやりと口の端をひきあげる。


そしてそのままガブリエルの唇に食らいつくように口づける。


「ん…っ…ぅ…。」
ヴラディスラウスはガブリエルの顎を両手でとらえ、逃がさぬようにさらに深く唇を重ね合わせた。


「あ…。」


また、酔う。


ガブリエルの心を最も苛んでいたのは、このよろこび。


ヴラディスラウスに求められる事への幸福だった。



                               To be continued…


久々のVH更新ですが…短いですねー;;
話の流れがあっちいったりこっちいったりでいつもややこしいうえ独りよがりな文ばっかなのでどーもアレですが。
本人結構楽しんで書いてます(笑

読んでくださる方、本当にありがとうございます。
大陸移動のごとくな更新速度ですが、まだこちらもゆっくり書いていこうと思ってますので。




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