彼方へ


第三部

4

「感謝します。ラジエル。」

神の知識の協力の意を得て、少なからぬ安堵とともに、ゾフィエルは謝意を示した。
それを聞いたラジエルは、わずかに口の端を持ち上げた。


「ふん…。」



「…何か?」

「少し驚いた。お前が感情を示すとはな。」

「礼を失しましたか。」

「不愉快というわけではない。謝罪は不要だ。」

「……。」

 

ゾフィエルの言葉が途切れたのを見てとったあと。

ラジエルは机を立つと、隣室へと姿を消した。

 

そこにこそ、この世界の知識が膨大な量にわたり本の形で安置されていた。

ラジエルしか入る事を許されない場所だった。

 


ラジエルは一歩入ると、自らの右にある本棚に向かう。
そして指を背表紙に触れさせた。

「鍵。」

一言告げると本の列は目にも止まらない速さで移動を始める。
程なく、一冊の本がラジエルの指先に止まった。

その本を取り出すことなく、ラジエルは言葉を連ねる。

「氷の城…果ての牢城…鏡の扉……。」

ラジエルは必要な言葉、それに繋がる情報を口にした。そこから過不足ない知識がラジエルの中で形をなしていく。

 

「…暁の子を封じし城…開封の法…地の底…。」

 

 

言葉が止まる。

 

「……地の底…か。」

突然ラジエルは踵を返し、部屋を出た。

 

微かに、手をにぎりしめる。
(…よりにもよって…か。)

 

現れた結論は、ラジエルにある感情を持たせていたが。
それは、状況を動かすには不要なことだ。

そう判断した。

今自分に出来ることは、もう終わったのだ。

 

 

「ゾフィエル。」


知識を過不足なく伝える事。
それのみが自分に望まれる役目だから。

 

 

####

食事を、という言葉に凍り付く恋人の頬に、指が這わされる。
ガブリエルはまた呆然と呟いた。

「血を…。」

「何を驚いている?」

 

「人のいる場所が…?」

ここは牢にされた城だ。なぜヴラディスラウスが外に行く?

「…何を驚いているのか分からないが。
 私に翼があるのを忘れているわけでもあるまい。」

「翼、だが翼なら…。」
ルシフェルにもあったはずだ。


ここはルシフェルすら封じた場所…。

暁の子。堕ちた天使…。

「…!」
ガブリエルは目を見開いた。

「何だ?」

 

「…。」

そうだ。ここはルシフェルを封じるための場所だ。
堕ちた天使を。

この地に張り巡らされた封印は…今は…。

(私にだけ有効なのだ。)

「ガブリエル?」

 

「………。」

ガブリエルは困惑していた。

(何故だ。

 ヴラディスを閉じ込められない場所を…なぜヨフィエルは。
 いや、誰がヨフィエルにこの場所を。)

 

あの時、ヨフィエルの残した指示のままにこの場所に追い込んだ。
だが…この男が自由に出るのならば、しかも自分が閉じ込められるなら何の意味もない。

 

…誰が…。ここを…。

 

思案にくれていると、突然顎をつかまれる。

「…何を考えている。」

「う…っ。」

気がつくと苛立つような目をしたヴラディスラウスが視界にいた。
そのまま味わうように唇を舌先で触る。

「お前は今でも私だけのものではないのか…?」
「く……。」

声色には焦りも見えた。
(不安か…。)

(私を閉じ込めて、自分だけのものにして。
 心そのものも奪って…ヴラディス…お前はまだ不安なのか…?)

(…私が逃げられないのを知らない…で…。)



ヴラディスラウスの舌先は首筋を撫でる。

ふと、ガブリエルはヴラディスラウスの背に腕をまわし、抱き寄せた。


「…ガブリエル…?」

どうした、と聞く前にガブリエルは答えた。


「…私の血を…飲め…。
 私の血だけを……。」


ほら、わたしはおまえのものだ。


そしてここにおまえをしばりつけよう。



                               To be Continued…



思ったより早く続きが書けてほっとしてます。
ご都合主義満載ですみませんが;;

てなわけで、映画の隙間をちょこちょこ都合よく変えてみました。
ま、筋だけは通ればいいかな。

次あたり大人っぽくなりそうですv

いつも読んでくださって本当にありがとうございます!!


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