彼方へ


第三部



「ガブリエル?何を…。」
ヴラディスラウスは戸惑いの色を見せた。

彼が自ら積極的な行動に出た事に。

以前も同様の事があった。
それは彼がヴラディスラウスの心臓を刺し貫いた時。

ヴラディスラウスはガブリエルの意図を勘繰る気持ちを無視できなかった。

だが、それ以上にこの甘美な誘いに心奪われる。

この美しく愛おしい肉体に流れる赤い糧。
求めずにはいられない。

「さあ…ヴラディス。」
抱き寄せる腕に力が込められる。

とくりとくり

糧は鼓動となり彼を誘う。

「…ん…。」
ヴラディスラウスの舌がつ、と首筋に触れる。
鋭利な刃物が切り裂く前に獲物に恐怖を与えるように。

ガブリエルの心中にも一抹の不安は現れた。
だが分かっている。


私は消えない。


私は狂わない。


「……っ。」

堪らない思いがガブリエルの胸をよぎる。
それが何に対する何の感情かはガブリエルには判断できなかった。
だが。

すがりつきたかった。
「…ヴラディス……。」

ガブリエルはヴラディスラウスの体を強く抱きしめた。

「ガブリエル。」

ヴラディスラウスはガブリエルの抱擁に疑問を抱きながらも。
衝動にそむくことを諦めた。

いや、最初からあきらめる必要などありはしない。
もうここには二人だけしかいない。
たとえ彼が自分に害を加えるつもりだったとしても。


たとえ自分が消えても。
この瞬間を全身に感じられるなら。



「う…ぁ…っ…。」


ヴラディスラウスの牙はガブリエルの喉に食らいついた。


二人の体に、同時に同じ感覚が宿っていた。
それを互いに知るすべはなかったが、それでもどこかで理解していた。


近く近く魂ごと寄り添うように。



######

「…は…っ。」

「ああ…すまない。いただきすぎたようだ。」

「いや…大丈夫だ。」

長くも短くも感じられた「食事」のあと。
ガブリエルの体は少なからず消耗していた。
それでなくとも続けられた交わりは体力を削り続けていたのだから。

だが、この少なくない時間の中、
食事もとらずガブリエルは生きている。
このときになって、ヴラディスラウスは改めてそれを不思議に思った。

「…ガブリエル。お前…糧はどうしている?」
「…。」

その質問に、ガブリエルは少し驚いたようにヴラディスラウスを見つめた。
そして少し苦笑するように顔をゆがめる。

久しぶりに、こんな顔を見たように思った。

「…そうか、言っていなかったな。
 お前とこんな話をするとも…思わなかったが。」

ガブリエルはゆっくりと体を起こす。

ふと、ヴラディスラウスの脳裏にヴァレリアス城での日々がよぎった。


「特に糧は必要ない。
 この身体は…時の流れとは無縁のものだからだ。」

その言葉にヴラディスラウスは少なからず驚いた。

「時を止めた肉体…。」
「そうだ。傷もできるし鼓動も打っているがな。
 詳しいことは私の管轄外だ。説明はできんが。」

「…いや、説明はいらない。」

ガブリエルの言葉を止め、ヴラディスラウスはガブリエルの肩を胸に引き寄せた。


「変わらぬお前が変わらぬままここにいてくれる。
 …それだけわかればいい。」

「…ヴラディス。」


冷たいはずのヴラディスラウスの身体は、不思議とガブリエルに温もりを与えた。
自分にだけ惜しみなく与えられる愛。


欲しいと思ったこともなかったはずなのに。



こんなにも嬉しい。



                          To be Continued…


結局裏ならず!!
ほんとはこのままもつれこませる予定だったのに;;なぜかほのぼのしてしまいました。
一応これで食事事情は(無理やり)説明ついた…かな。

ガブリエルの身体は1週間のループで回復します。
(いつもながらとってつけたような設定ですが;)
ちなみに回復するのはガブリエルの守護する月曜日。

毎度短くてすみません;
また頑張ります!!

いつも読んでくださって本当にありがとうございます!!


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