こいあうもの


五 誰にも気付かれない声が僕の耳に届いた


「どう、どう。」
政宗が誘いのままに連れて来たのは、館から程近い丘の上。
日光に照らされたまだ解けぬ雪の残る原が見えた。

「政宗殿、こちらにはどうして?」
「休憩だ。」
さらりと答える政宗に、幸村は苦笑する。

「休憩とは…これから政務のお時間でござろう。」
「別に休憩時間を最初にしたってかまわねえだろ?NoProblemってやつだ。」
「の…のーぷろ…?」
舌をかみそうに政宗の言った異国語を口にしようとする様が、可笑しくて
政宗は笑いながら言った。
「問題なしって意味だ。」

「そうでござるか……政宗殿の言われる言葉は発音から難しゅうございますな。」
「ああ、こっちとは言葉の作りから違うし…な。」

(…?)


「政宗殿?」
「え…?」

「どうかなされたか?疲れがたまっておいでか?」
「あ…あぁ、まあ…な。」
今…何か…。


「何と。ではしっかりお休みなされ!」
「…ああ。」


その時、心のどこかで感じたなにかを
政宗は気付かないふりをした。


#####

「政宗様!政務を放ってどちらにいらしていたのですか!
幸村殿!そなたも一緒か?!」
館に帰った二人を出迎えたのはやはり小十郎だった。

「堅ぇこと言うなよ、政務はちゃんとするからよ。」
「当然でございます!さっさとこちらへ。」
首根っこをつかむ勢いで、小十郎は政宗を引っ張っていく。
政宗はやれやれ、と思いながら幸村に声をかける。

「じゃあ、あとでな幸村。」
「…はい。」


にこり、と幸村は笑った。


#####


一人になった幸村は、庭に向かう。
春が近付こうとしていた。
雪も解け、青い芽がそこかしこから顔を覗かせている。

ここに来て…もう…。

そこまで考えた時。
以前感じた気配が傍にいるのに気付いた。


「…そなたか。」

「先程の話の続きだ。
 …お前を連れ戻す。」

「……。」

「躊躇うのか?」

「……いや。」


幸村は振り向いた。
そこに艶やかな金の髪と、黒い装束のくのいちがいた。

「…そなたが来るとは思いもしなかったのでな。

 …かすが殿。」

「……。」
幸村が笑顔を見せると、かすがは顔を俯ける。
そして吐き出すように、突き放すように言った。


「…同郷のよしみだ…佐助の、最期の頼みだった。
 お前のためじゃない。」

「……そうか。」
幸村は瞳を閉じる。
表情を崩しているわけではないのに、その悲しみは痛いほどにかすがにも感じ取れた。

そしてかすがは問うた。
「ここから…行くのか。」


#######

「幸村殿!ここにいたのか。」

「ああ、小十郎殿。」
庭にいた幸村を最初に見つけたのは、小十郎だった。

政宗の手の離せない時に、幸村の世話をやいていたのは彼だった。
最初は渋々ではあったが、次第にまっすぐで子どものような幸村に
自主的に関わるようになっていた。

そんな小十郎が彼を見つけたのはごく自然なことだった。


だが、この時だけはその事を感謝した。
することになった。


「政宗殿は政務でございますか。」
「ああ。午前中にしっかり休まれたのだ。午後と夜はしっかりと仕事をしていただかなくてはな。」

「あ…申し訳ありませぬ。」
「気にするな。ああは言ったがお前のせいじゃねえのは分かっている。」

公平に物事を判断してくれる彼を、政宗は兄のようだと言っていたが。
幸村も兄のように少し、感じた。
そして。


この場所を、好きだと思っていた。



「幸村。話がある。」


「は…?何でございましょうか?」


突然の話に幸村は少し驚いた。
そして言葉が続けられるのを待った。


すると、小十郎の表情が少し堅くなった。



「幸村…いや、真田源次郎幸村。
 …思い出しているな?」


「……!」



幸村は目を見開いた。



                            to be Continued…



てなわけで、記憶回復です。
かすがちゃんこれから大活躍の予感。
実は好きです。真かす。(笑)

一応シリアスで続けていくつもりですので…痛い話に更になっていくかも。

こんなんですが、また続きが書けたら読んでみてくださると嬉しいです。


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