こいあうもの


八 星に手を伸ばして己の小ささを知る


「徳川が動いたか…。」

「は。真っ直ぐに上田へと向かっております。」

「上田…真田昌幸がいるな。
 今は上杉に帰順しているか。」

「はい。いかがされますか。」



「ふん…武田が滅びてから織田へ上杉へと渡り歩くか…。
 武田にいたころは知将と名高かったものだが。

 あの赤い小僧が生きておれば興味もあったがな。」

戦場に咲いた紅蓮。
この時代にそぐわぬほどに真っ直ぐな炎。
つかうには難しいがその破壊力と戦術は死んで忘れるには惜しい、そうも思うほどに。

だがもうそれもいない。


「上田の地は守らねばならん…が、
 ここはまず軍神亡きあとの上杉を見極める意味でも少し時間を置こう。
 だが出陣はいつでもできるよう整えておこう。」


「御意。」





「この国の創造は近いぞ…半兵衛。」


######



同じ頃。
長篠に二つの蹄音が響いていた。

上杉の忍び、かすがと
真田幸村だった。


「…。」
「真田…。」

幸村は戦場跡を食い入るように眺めていた。

失っていた記憶の最深に封じ込めたもの。
織田に蹂躙された負け戦。


心酔する主君も…大切な部下も失った。
今の真田幸村を形成した最も大きな箇所。


「おやかた…様…佐助…。」

ぽろぽろと涙がこぼれて来るのを止めることはしなかった。



幸村は最前線のあった場に付くと馬から降り立った。

まだ血を含んだままの土に膝を落とす。


幸村はかがみこみ土を握り締めて、泣いた。
泣いて、叫んだ。



これが最後と、決めて。


「う…わあああああああああああ…!!!

 おやかたさまあああああ!!
 
 さすけ…ぇ…!!!

 ああああああああああああ!!!!」



赤い鬼の咆哮をかすがは目をそらさずに見つめた。


目をそらせなかった。


泣き叫ぶ姿がたとえようもなく美しく
かすがの眼に映ったから。




#######

咆哮が途絶えた後。
幸村はその場に仰向けに寝た。


いつしか空には星が見える。
時間がたったのだな、とぼんやりと思った。


「…もう春になったのだな。」
「分かるのか?」

かすがはいつの間にか幸村の傍に来ていた。
寝転ぶ幸村の隣に腰を下ろす。

「ああ、佐助が教えてくれた。
 あの星の並びは春に見えるものだと。」

「…そうか。
 忍びの知識を教えるとは佐助もなっていないな…。」
記憶にある気軽げな昔馴染みを思い浮かべ、へらない口をたたく。

「佐助は悪くないぞ?
 某が教えて欲しいとねだったのだ。」
「ふーん?知りたかったのか?」

「ああ、季節により空の星が変わるなど、とても面白いと思ってな。
 それも全て佐助に聞いた。

 あれは少し困ったように笑って教えてくれた。」


「そうか…。」
きっとそれは好奇心に輝いた眼で迫ったことだろう。
多分、それには勝てなかったのだ。

そう思い、かすがは笑った。

幸村も少し微笑んだ。


しばらくして幸村はまた星空を見上げる。



「だがそれでも…空は変わらぬか。
 地がどれだけ変化しようとも…また夏になれば夏の星が現れる…。」

「…そうかもしれない…。」

「地が変われば人はゆらぐ…俺も…おそらくそなたもそうだったな…。」

「…余計なお世話だ。」
「ああ、すまぬ。」


「……。」


少し黙った幸村に、かすがは怪訝な顔で聞いた。

「真田…?どうした?」

「……まだ某にもできることは…あるだろうか…?」




「君にやって欲しいことはあるよ。」




「「!?」」

突然聞こえてきた声に幸村とかすがははね起きた。
今まで何の気配も感じられなかったのに。


反射的に振り向くと、そこに見知った顔がいた。



「竹中…半兵衛。」


「やあ、久しぶりだね。
 幸村くん。」



豊臣軍きっての天才軍師が、そこにいた。




                          To be Continued…


少しずつ話が動いてきました。
幸村とかすがちゃんもそれなりに接近。傷ついたもの同士なので、近付きやすいかな
と、こじつけております。

さーこれからオリキャラ出さないといけませんね;
まず幸村パパ・昌幸さんからかな…。

読んでくださりありがとうございました!!


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