偶然の責任   中篇


 誰が悪いわけでもねー。

 ただ、偶然。


 

 触れた唇は予想以上に甘くて。
 
 「な…っ何しやが…。」
 
「何やってやがる!!」


 天国が突然のキスに文句を言う前に、犬飼の罵声が飛んだ。
 御柳にとっては予想通りの反応だった。
 
 犬飼は全身で怒りを表し、眼力で人が殺せそうなほど激しい目つきをしていた。
 
 「御柳…てめぇ何で猿と居やがる・・・。」
 「おいっ犬飼?!」
 「何でって、ぐーぜん。」

 「偶然だと?てめぇ、偶然会った奴にキスすんのかよ!」
 「オレはこいつにしてぇと思ったからしただけだ。てめーに文句言われる筋合いはねーぞ?」
 無茶苦茶な言い分である。しかし…正論でないとも言い切れない。
 最も、そう言われて納得できる人間はここには存在しなかったが。
 
 
 「御柳…。」
 犬飼は更なる怒りを露にしかかった。
 


 「ちょっと待て。」
 静かな、しかし強い声が妨げた。
 言うまでもなく、天国である。


 「猿、オメーは黙って」
 「やかましい。オレはいきなり野郎にファーストキス奪われてんだ。
  テメーの100倍は言いたい事があるんだよ!」

 どうやら犬飼に負けず劣らず怒っていたらしい。
 天国は犬飼を黙らせると御柳に向かった。
 無言で襟首をつかみ、怪力に物を言わせて引き寄せる。

 「…んだよ。もう一回してほしーのか?」
 至近距離で御柳は不適な笑みを浮かべる。
 しかし、天国は冷たい顔をくずさない。
 
 「するかアホ。一発殴ってすましてやるから歯ぁ食いしばれ。」
 そう言い捨てた。
 
 
 一発殴って…すますと。

 すます。
 なかったことにする。

 オレはこいつにキスしなかったことになる。
 
 別にかまわないはず。
 
 けど、何か気にいらねー。

 ここで会った事もなかったことになって。

 こいつはこの後何事もなく犬飼とデート(?)する。

 オレの事を全部なかったことにして。


 嫌だ。


 「…勝手に…。」
 「あ?」

 「勝手になかった事にすんじゃねえよ!」
 御柳はそう叫ぶと天国の手を振り解き、天国を見つめる。
 犬飼も知らないような、熱い眼で。


 「御柳…まさか、てめえ。」
 犬飼は怪訝な顔つきをする。
 限りなく確信に近い予感がした。
 御柳が、自分と同じ想いに陥った事を。


 「あぁ?せっかくオレが親切にもお前の暴挙を水に流してさしあげようっつーのに、いいってのか?」
 しかし天国には全く届いていなかった。
 
 その様子に、少し残念になったが、別にいいか、と思った。
 「いーんだよ。…てめーに忘れてもらっちゃ困る。」
 「何で?」
 「オレがお前にホれたから。」

 ダイレクト。
 =直接的


 「は?」
 当然のごとく、天国は呆然。

 確かこいつとは2回目に会ったばかりのはず。
 女の子なら、まだ分かる。けどオレは男なはず。確かに女装はLOVEだが…。

 天国はやや混乱の様相をきたして来た。
 「何だ?日本語通じてねーのか?」
 

 一方、犬飼は言葉にならないくらい激怒していたが。
 ついに堪忍袋の尾が限界をこした。 
 「てめえ、勝手な事言ってんじゃねえ!!オレだってこいつが好きなんだよ!!」
 「はぁ?!!」

 「あー?だからどーした。別にこいつはてめーのモンじゃねぇだろ。」
 「てめぇのモンでもねぇよ!大体オレの方が先にこいつに惚れてんだよ!」
 「時間なんか関係あるかボケ。ンな事にこだわってっからてめーは負け犬なんだよ。」



 「いーかげんにしろ!!!」
 
 本日3度目の天国のよこからの声が響く。
 二人が天国に眼を向けると、天国が仁王立ちで睨み付けていた。

 
「犬飼。」
 
いつもよりかなり震えた声。
  犬飼は天国の迫力に押され、つい背筋をのばし返事をした。
  「はい。」
  「今、オレが好きとか言ったな。本気か?」
  今更ながらに告白してしまったことに気づく。
  犬飼は色黒の顔を真っ赤にしながらも、答えた。
  「…とりあえず、本気だ。」
  「分かった。」
   
 天国はそう言うと、次は御柳に向かう。
 
「御柳。」
  御柳も先ほどの犬飼同様に返事をした。。   
  「はい。」
  「てめーも本気なわけ?」
  「ああ。」
  「からかってキスしたわけじゃねえんだな?」
  「そう言ったろ。」

  「分かった。」


  それだけ言うと、天国は踵を返した。
  「おい、猿!」
  「…とりあえず、どこ行くんだ?」
  
  天国は背を向けたまま答えた。
  「てめーらの気持ちは分かった。
   けど、今すぐには答えだせねーから、これから帰って考える。
   犬飼…わりーけど今日の約束、パスな。」
  天国は言い残すと、そのまま立ち去っていく。


  「って…猿野!!」
  犬飼は天国の後を追って行った。
  しかし、御柳はその場に立ち竦んでいた。
  「……。」


  つまりは、オレらの気持ちにどう答えるか、これからすぐに考えると。
  
  つまり、オレの言った事を。

  こんなにもあっさり認めてくれたと。

  真剣に考えてくれると。

  「マジ…やべえよ。」
  柄にもなく御柳は顔を赤らめた。
  
  
  溺れそうになる。


  「けど、いきなり帰って考えるって…。」
  御柳はその場で赤い顔のままクスクスと笑い出した。


  街中の人たちは、長身の美少年が赤い顔で笑っているのを、少し怪訝に見ていたが。
  全く気にならなかった。



  
 
  天国が華武高校を訪れたのは、それから3日後のことだった。

             
                                                To be Continued…

  



  す…すみませんっ!!終わりませんでした!!
  最後まで書くのはどうも違和感が残ったので、ここで一度切ります!!
  完結編はかなり短くなると思いますが、真様、お許しください!!

  では、ここらで・・・・・・。
  なるべく早く続き書きますね!! 

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