彼方へ
第二部
7
「あんたは…神様が言うならそれでいいって言うのか…?!」
ヨフィエルの言葉に、マルクは憤りをあらわにした。
それは先ほどまでのマルクとは違う。
今マルクは、本気で怒っていた。
ヨフィエルは戸惑いを胸に感じながらも、それを表には出さずマルクに聞いた。
「君は何故そのように憤る?」
冷静な答えはマルクの怒りに拍車をかける。
「何故?!ああそうだな、神の御意志に…疑問を持つなどあんたにとってはおかしなことなのだろうさ!」
マルクはヨフィエルの襟をつかむとくってかかった。
「だけど…何の疑問も持たずに自分の子どもを殺す…
それが神の御意志だと…神に背いたからと…それでいいっていうのか?!
あんたも!伯爵さまも!あんたのご主人も!!」
「…っ。」
ヨフィエルはマルクの憤りの意味をやっと察した。
確かに訳を説明されていないマルクたちにとっては、そう思っても仕方のないことだろう。
(それにしてもこれほどに憤るとは…。)
聖騎士団であれば、疑問を持つことはなお抑制されるべきはず…。
そう思ったとき。
「よせ、マルク!!」
リーダーであるハロルドが飛び出してきて、ヨフィエルにくってかかるマルクを引き離した。
「はなせハロルド!!」
マルクは憤りを抑えることなくハロルドの手を振り解こうとした。
「やめろ、落ち着け!!落ち着くんだ!!」
「嫌だ!!」
「落ち着くんだ、マリー…!!」
ハロルドの声に辛い想いが混じる。
そしてヨフィエルは驚いた。
今彼が呼んだ名前は…。
「ヨフィエル?何事だ。」
「!ガブリエル様…!」
騒ぎを聞きつけてガブリエルも姿を見せる。
その姿を見て、マルク…マリーはガブリエルをきっと睨んだ。
「アンタにも言っておく。
私は…親子の殺し合いを手伝うのは真っ平だ!!」
「!」
突然たたきつけられた言葉に、ガブリエルは目を見開いた。
ヨフィエルは今の言葉にガブリエルが何を感じたか、全てわかることは出来なかったが、
少なからず衝撃を与えたことは分かった。
これ以上マルクを…マリーを憤らせるわけにはいかなくなった。
ハロルドも必死で抑えていた。
「もう止めろ、やめるんだ!!」
「いやだ…私は…っ…!!」
マリーは声を吐き出した。
「私は嫌…!!子どもを殺したくなんてない!!!」
次の瞬間。
ガブリエルはマリーの額にすばやく手を当てた。
すると。
「…っ。」
糸が切れたように、マリーはハロルドの腕のなかにくずおれた。
「マリー?!」
ハロルドは突然のことに驚くが、マリーは穏やかに寝息をたてていた。
「…。」
「ガブリエル様…。」
ヨフィエルは心配げに主人の顔を見た。
ガブリエルは表情を崩してはいなかった。
「ヨフィエル、マルクは体調を崩したので今回の戦からはずす。
その旨…法王様に。」
「…はっ。」
「貴方は…一体…。」
ハロルドはガブリエルに聞いた。
「マルク…いや、マリーのことなら心配はいらない。
落ち着いてもらうよう眠っているだけだ。」
「ガブリエル…貴方は、マリーの事をご存知だったのですか…?」
「…私が分かっているのはマルクが女性だということだけだ。
そのほかのことは知らないが…。」
「…。」
ガブリエルはハロルドに向かい、まっすぐに目を見た。
「戦うことを拒むなら、彼女を連れて行くことはできない。
だが…君たちは今回の戦にどうしても必要だ。
だから置き去りへの謝罪はハロルド…
君が生きて戻って彼女にしてほしい。」
「…お気遣い、感謝します…。」
ハロルドは腕に眠る…妻を抱きしめた。
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私がハロルドと出会ったのはもう10年近く前のこと。
まだその頃私は修道女の一人で…神に仕えて生きていた。
だけどハロルドに出会って…私は彼を神以上に愛してしまった。
彼も私を愛してくれた…。
それが神への冒涜であり罪であると分かっていても。
ハロルドを愛し、愛されることを止めることはできなかった。
そして出会って1年たったころ、私は自分が身ごもっていることを知った。
そして神は、罪をおった私に贖罪を求めたのだ…。
愛するハロルドを最前線へ。
私はヴァチカンから追放された。
子を身ごもったまま、あてどなくさまよった私を助けてくれたのはダスティの弟、デイルと、その妻であるエレンだった。
そして私はハロルドの子ども生んだ。
男の子だった。
だが、それをどこでつかんだのか、ヴァチカンの使者が私を訪れた。
使者は言い放った。
『存在しない者と神に仕える者の子は存在を神に許されない』と。
そして命令したのだ。
私に 我が子を 殺せ と。
そんなことはできるわけがなかった。
だから私は変わりに、自分が聖騎士団に入り神への贖罪のために戦うことを誓った。
子どもをデイルとエレナに任せて。
私は我が子を離すしかなかった。
私が子どもに与えることが出来たのは ただひとつ。
エリック…その名前だけ…。
絶対需要のないオリキャラのエピソードが入ってきました。
女騎士マルク(マリー)とハロルド。
とりあえず長くしてもしょうがないので、短くまとめたんですが…まあお気になさらず。
この時代(おそらくずれてますが)、教会は3分に分かれローマ法王の権威はがた落ちだったようです。
10年の間で統合されたってことでよろしくお願いします(おい)
この後カトリック教会じゃローマ法王の権威を取り戻すために、そりゃあもうえげつない手をつかいまくることになるんですが…。(魔女狩りとか)
その一端、ということで。
神への冒涜は決して許さない、という。
伯とガブはもうちょっとしたら再会します。
さてさて、やたらふくれてきました話ですが…どうなることやら。
いつも長い間をおいて申し訳ありませんです。
今回も読んで下さってありがとうございました!
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