彼方へ


第二部






「あんたは…神様が言うならそれでいいって言うのか…?!」

ヨフィエルの言葉に、マルクは憤りをあらわにした。
それは先ほどまでのマルクとは違う。
今マルクは、本気で怒っていた。


ヨフィエルは戸惑いを胸に感じながらも、それを表には出さずマルクに聞いた。

「君は何故そのように憤る?」

冷静な答えはマルクの怒りに拍車をかける。

「何故?!ああそうだな、神の御意志に…疑問を持つなどあんたにとってはおかしなことなのだろうさ!」

マルクはヨフィエルの襟をつかむとくってかかった。

「だけど…何の疑問も持たずに自分の子どもを殺す…
 それが神の御意志だと…神に背いたからと…それでいいっていうのか?!

 あんたも!伯爵さまも!あんたのご主人も!!」


「…っ。」

ヨフィエルはマルクの憤りの意味をやっと察した。

確かに訳を説明されていないマルクたちにとっては、そう思っても仕方のないことだろう。

(それにしてもこれほどに憤るとは…。)


聖騎士団であれば、疑問を持つことはなお抑制されるべきはず…。

そう思ったとき。

「よせ、マルク!!」

リーダーであるハロルドが飛び出してきて、ヨフィエルにくってかかるマルクを引き離した。


「はなせハロルド!!」

マルクは憤りを抑えることなくハロルドの手を振り解こうとした。


「やめろ、落ち着け!!落ち着くんだ!!」

「嫌だ!!」





「落ち着くんだ、マリー…!!」






ハロルドの声に辛い想いが混じる。



そしてヨフィエルは驚いた。
今彼が呼んだ名前は…。



「ヨフィエル?何事だ。」
「!ガブリエル様…!」


騒ぎを聞きつけてガブリエルも姿を見せる。

その姿を見て、マルク…マリーはガブリエルをきっと睨んだ。


「アンタにも言っておく。
 私は…親子の殺し合いを手伝うのは真っ平だ!!」


「!」


突然たたきつけられた言葉に、ガブリエルは目を見開いた。

ヨフィエルは今の言葉にガブリエルが何を感じたか、全てわかることは出来なかったが、
少なからず衝撃を与えたことは分かった。


これ以上マルクを…マリーを憤らせるわけにはいかなくなった。


ハロルドも必死で抑えていた。

「もう止めろ、やめるんだ!!」



「いやだ…私は…っ…!!」



マリーは声を吐き出した。



「私は嫌…!!子どもを殺したくなんてない!!!」



次の瞬間。

ガブリエルはマリーの額にすばやく手を当てた。

すると。


「…っ。」

糸が切れたように、マリーはハロルドの腕のなかにくずおれた。



「マリー?!」

ハロルドは突然のことに驚くが、マリーは穏やかに寝息をたてていた。


「…。」

「ガブリエル様…。」
ヨフィエルは心配げに主人の顔を見た。

ガブリエルは表情を崩してはいなかった。


「ヨフィエル、マルクは体調を崩したので今回の戦からはずす。
 その旨…法王様に。」
「…はっ。」


「貴方は…一体…。」
ハロルドはガブリエルに聞いた。


「マルク…いや、マリーのことなら心配はいらない。
 落ち着いてもらうよう眠っているだけだ。」


「ガブリエル…貴方は、マリーの事をご存知だったのですか…?」

「…私が分かっているのはマルクが女性だということだけだ。
 そのほかのことは知らないが…。」



「…。」



ガブリエルはハロルドに向かい、まっすぐに目を見た。


「戦うことを拒むなら、彼女を連れて行くことはできない。
 だが…君たちは今回の戦にどうしても必要だ。

 だから置き去りへの謝罪はハロルド…
 君が生きて戻って彼女にしてほしい。」


「…お気遣い、感謝します…。」


ハロルドは腕に眠る…妻を抱きしめた。




###########


私がハロルドと出会ったのはもう10年近く前のこと。

まだその頃私は修道女の一人で…神に仕えて生きていた。


だけどハロルドに出会って…私は彼を神以上に愛してしまった。
彼も私を愛してくれた…。


それが神への冒涜であり罪であると分かっていても。

ハロルドを愛し、愛されることを止めることはできなかった。


そして出会って1年たったころ、私は自分が身ごもっていることを知った。



そして神は、罪をおった私に贖罪を求めたのだ…。


愛するハロルドを最前線へ。

私はヴァチカンから追放された。


子を身ごもったまま、あてどなくさまよった私を助けてくれたのはダスティの弟、デイルと、その妻であるエレンだった。


そして私はハロルドの子ども生んだ。


男の子だった。


だが、それをどこでつかんだのか、ヴァチカンの使者が私を訪れた。


使者は言い放った。


『存在しない者と神に仕える者の子は存在を神に許されない』と。



そして命令したのだ。



私に 我が子を 殺せ と。



そんなことはできるわけがなかった。



だから私は変わりに、自分が聖騎士団に入り神への贖罪のために戦うことを誓った。



子どもをデイルとエレナに任せて。



私は我が子を離すしかなかった。




私が子どもに与えることが出来たのは ただひとつ。



エリック…その名前だけ…。




To be Continued…


絶対需要のないオリキャラのエピソードが入ってきました。
女騎士マルク(マリー)とハロルド。
とりあえず長くしてもしょうがないので、短くまとめたんですが…まあお気になさらず。

この時代(おそらくずれてますが)、教会は3分に分かれローマ法王の権威はがた落ちだったようです。
10年の間で統合されたってことでよろしくお願いします(おい)

この後カトリック教会じゃローマ法王の権威を取り戻すために、そりゃあもうえげつない手をつかいまくることになるんですが…。(魔女狩りとか)
その一端、ということで。
神への冒涜は決して許さない、という。

伯とガブはもうちょっとしたら再会します。


さてさて、やたらふくれてきました話ですが…どうなることやら。


いつも長い間をおいて申し訳ありませんです。


今回も読んで下さってありがとうございました!


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