強く儚い者たち
14
電話を受けてから十数分後。
屑桐は明美の父から聞いた病院にたどり着いていた。
急いで受付で聞いた部屋に駆けつける。
迅速に行動しつつも、屑桐には信じられなかった。
(さっき…さっき話したのに。)
そして、霊安室の前にいる天国の両親の姿が見えた。
「おじさん…おばさん。」
「…無涯君。来てくれたんだ。早かったね…。」
天国の父は流石に憔悴した表情であった。
天国の母は…何も言わない。
呆然とした表情でその場に佇んでいた。
「一体…どうして。」
「家に帰って来る途中で…ね。
暴走車を避けた車に巻き込まれたんだ。
打ち所が悪くてね…即死だったそうだよ。」
「どうして…?
どうして明美が…!!!」
「…落ち着くんだ、明江。」
搾り出すように声を放つ天国の母の姿に、屑桐は明美の死が事実であると認識した。
そして、最も気になる事を…何とか聞いた。
「天国は…どこに?」
「明美の側にいるよ。
…君も会ってきてやってくれるかい?」
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「天国…。」
霊安室は、恐ろしいほどの静寂に満たされていた。
その中にいたのは、白いシーツに包まれた物言わぬ明美と…天国。
「天国…。」
「無涯…来たんだ。」
帰ってきたのは、聞いた事もない程の冷たい天国の声。
「あ…ま、くに?」
戸惑いを隠せない屑桐に、天国は同様に冷たい視線を送った。
「よく来れたね。明美を…裏切って。」
「……!!」
天国の言葉は屑桐の胸を貫いた。
天国自身、このような言葉を屑桐に放ちたくはなかった。
だが、やり場のない怒りを、悲しみを静められずに。
そして、自分自身を憎む気持ちを抑えられずに。
「…だけど、僕だって…僕だってそうだよね。
僕も…明美を裏切ったんだ…だから…明美を…。」
「…天国?何を言って…。」
「きっと…許してくれないよね。
明美も…僕の事。」
天国の表情が消えていく。
それは閉じていく天国の心を表していた。
天国は自分を責めていた。
大事な姉を裏切り…そして、失った事すらも自分のせいのように思えて。
生き残ってしまった自分自身を、天国は許す事が出来なかった。
「僕が…明美を裏切ったんだ!だから…。」
屑桐はそこまで自分を責める天国に怒りすら感じた。
「違う!!」
「違わないよ!!」
頑なな天国に屑桐は最後にあった時に明美が言った言葉を言う。
「明美が好きだったのはお前だ!!
それに…オレも…!」
「!」
突然の告白。
だが、屑桐の感情を受け入れる余裕も、まして明美の想いが自分に向けられていた事を信じることも
今の天国にできるわけがなかった。