強く儚い者たち


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電話を受けてから十数分後。
屑桐は明美の父から聞いた病院にたどり着いていた。

急いで受付で聞いた部屋に駆けつける。



迅速に行動しつつも、屑桐には信じられなかった。


(さっき…さっき話したのに。)


そして、霊安室の前にいる天国の両親の姿が見えた。

「おじさん…おばさん。」

「…無涯君。来てくれたんだ。早かったね…。」
天国の父は流石に憔悴した表情であった。

天国の母は…何も言わない。
呆然とした表情でその場に佇んでいた。


「一体…どうして。」
「家に帰って来る途中で…ね。
 暴走車を避けた車に巻き込まれたんだ。
 打ち所が悪くてね…即死だったそうだよ。」

「どうして…?
 どうして明美が…!!!」
「…落ち着くんだ、明江。」
搾り出すように声を放つ天国の母の姿に、屑桐は明美の死が事実であると認識した。
そして、最も気になる事を…何とか聞いた。

「天国は…どこに?」

「明美の側にいるよ。
 …君も会ってきてやってくれるかい?」


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「天国…。」

霊安室は、恐ろしいほどの静寂に満たされていた。
その中にいたのは、白いシーツに包まれた物言わぬ明美と…天国。


「天国…。」

「無涯…来たんだ。」
帰ってきたのは、聞いた事もない程の冷たい天国の声。

「あ…ま、くに?」
戸惑いを隠せない屑桐に、天国は同様に冷たい視線を送った。

「よく来れたね。明美を…裏切って。」
「……!!」

天国の言葉は屑桐の胸を貫いた。


天国自身、このような言葉を屑桐に放ちたくはなかった。
だが、やり場のない怒りを、悲しみを静められずに。

そして、自分自身を憎む気持ちを抑えられずに。


「…だけど、僕だって…僕だってそうだよね。
 僕も…明美を裏切ったんだ…だから…明美を…。」

「…天国?何を言って…。」

「きっと…許してくれないよね。
 明美も…僕の事。」

天国の表情が消えていく。
それは閉じていく天国の心を表していた。
天国は自分を責めていた。

大事な姉を裏切り…そして、失った事すらも自分のせいのように思えて。
生き残ってしまった自分自身を、天国は許す事が出来なかった。


「僕が…明美を裏切ったんだ!だから…。」


屑桐はそこまで自分を責める天国に怒りすら感じた。

「違う!!」
「違わないよ!!」

頑なな天国に屑桐は最後にあった時に明美が言った言葉を言う。


「明美が好きだったのはお前だ!!
 それに…オレも…!」


「!」

突然の告白。
だが、屑桐の感情を受け入れる余裕も、まして明美の想いが自分に向けられていた事を信じることも

今の天国にできるわけがなかった。

「何言ってんだよ?
 明美は…無涯が…!」

「違う!明美はお前だけを見ていたんだ!」


「嘘だ!!!」


「天国…!」




「無涯…僕は、あんたも許せない。
 明美を大切にできないので…僕が好きだといって明美が死んでまで明美の想いを裏切って。
 僕は…無涯を許さない!!!」



「!!」


突き放した言葉。
それは屑桐の心を切り裂くようで。


「それに…僕自身も…。」
付け加えられた小さな一言。


「天国…。」

「出て行って。」



屑桐は、これ以上は何もいえなかった。
言ったところで、天国には届かない。

もう、届かない。


明美は
天国の心を連れて逝ったのだ。


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それから 屑桐は天国と話すことはなかった。

通夜の時も 

葬儀の時も

納骨の時も


天国は屑桐の存在を頑なに拒み。

屑桐も天国に近寄れずに。


話せないままで。





猿野家が転勤のために引っ越したのはそれから数ヵ月後。

それほど遠方ではないために明美の墓はそのままにして。

屑桐が野球部の合宿のために自宅にいない間に。

家族と共に天国は屑桐の前から姿を消した。




なにも、伝えないままに。


                                   To be Continued…



やーっと過去編終わりました!
これで天国、明美、屑桐の3人の間に何があったのかは補完できたわけです。
心残りは…ありすぎるのでいえませんが。

とりあえず、過去編終了です。
さ〜て、次からはいよいよ華武高戦の捏造バージョンです!!

ここまでお付き合いくださった皆様いつもながらほんっとにありがとうございます!!
これから佳境らしきものに入る予定ですので、よろしくお願いします!!

ではでは。


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