彼方へ


第二部



15


「ん…っっ…。」

何度も何度も角度を変えて、唇を奪う。
飢えた獣のように、吸血鬼は天使を喰らう。

「は…。」
「甘いな…。」
恍惚とした表情でヴラディスラウスはガブリエルを見た。

深い深い口付けはガブリエルを翻弄する。
瞳は潤み、頬は紅潮し艶を見せる。


「…邪魔だな…。」
「っ…!」

ピッ、と音がしたかと思うとヴラディスの爪がガブリエルの身に着けていた衣服を切り裂く。
美しく引き締まった肌が空気に触れた。


「…ヴラディス…やめ…。」
拒否の声を上げるも、毒が回っているのか上手く声が出ない。


その時。


ガシャン


「!」

大きな音がして、ガラスを砕き何者かが部屋に入ってきた。


GRRRR…

それは先ほど伯爵を襲ったウルフマンだった。
ヴラディスラウスはつまらないものを見るようにウルフマンに視線を向けた。

「…殺せなかったのか。役立たずが。」

冷たい言葉に、ウルフマンは頭を垂れる。
間違いなく彼に従属していた。

ヴラディスラウスは言葉を続ける。


「母親は殺せたのに。」


「!!」

ビクリ、とウルフマンは身体を振るわせた。


そしてガブリエルも眼を広げる。


「母親…まさか…このウルフマンは…!!」
「おや、気づいていなかったのか?」

意外だとでもいうような眼差しをガブリエルに向ける。

「そう、これはラドゥラス…わが弟だったモノだ。
 こうなれば出来損ないでも私の言うことは聞くようになる。

 ちゃんと自らの手で最愛の母親を縊り殺したものだ。」


「な…!!」

楽しげに言うヴラディスラウスに驚愕する。
まだ、あの時はエリディアもラドゥラスも人であったのに。


それなのに。

ガブリエルの悲嘆も気にすることなくヴラディスラウスは話を続ける。


「そういえばあの女も血は悪くなかったな…。」
くす、と微笑む。


「…飲んだのか…?!」


肉親の血。
それは吸血鬼にとって最高の糧。
予想が出来ていなかったわけではない。
しかしそれを口にしているのならば。


「一滴残らず。」


目の前にいる男の能力は。




「ガァアアアアアアア!!!」


「!!」


ガシュッ


瞬間、どす黒い血が飛んだ。


「…な…に…?!」
驚くヴラディスラウスの腕からは、鮮血とは程遠い黒い血が流れていた。


ウルフマンだった。

その眼にははっきりとした憎悪の意志が見える。
彼は今、ラドゥラスだった。


その姿に、ヴラディスラウスは驚きの表情を消しうっすらと笑みを浮かべた。


「ほう…どうやら見くびりすぎていたようだな。ラドゥラス…。」

血を流しながらもヴラディスラウスは既に冷静だった。


(血が…?)
目の前の出来事に驚きながらも朦朧としていく意識の中。
ガブリエルはヴラディスラウスの血を見ていた。


黒い血を。


(あれは…。)



「アアアアアアアアアアア!!!」
突如声を上げてラドゥラスはヴラディスラウスに突進する。


ヴラディスラウスはその一瞬、ナイフを突きつけた。



わずかに赤い色の液体が付いたナイフだった。



ドスッ!



「!!!」

「ラドゥ……!!」

薄れる意識の中、ガブリエルはラドゥラスの影が小さくなっていくのを見た。



「ガ…ぁ…あ…。」

ラドゥラスが、ラドゥラスに戻っていく。
ナイフは確実に心臓を貫いていた。


ゆっくりと、その体がくずおれていく。



「ふん…。」
ヴラディスラウスは傷を押さえる。

そして無言で踵を返し、奥の部屋に行った。


兄の姿がドアの向こうに消えるのと、同時にラドゥラスは床に倒れた。


それは自慢していた金の髪の、美しく傲慢だった頃と同じ姿だった。


「ラドゥラス……!」


その声に、まだ意識が残っていたのかラドゥラスはかろうじて顔を向ける。
そして最後の力で、ガブリエルに手を伸ばした。


その瞳は、哀しさと悔しさに満ちていた。


そして何かを強く強く願っていた。



「…神よ……。」



最期の声に祈りを込めて。


ラドゥラスは息絶えた。



                              To be Continued…


すみません9月に終わらせるとかいっときながら4ヶ月近く更新してませんでした!!
やっと長編復活です。
あと数話で二部は終了…なんとかラドゥラスも役目を果たしてくれほっとしてます。

ま、詰め込んでますが…すみません文章力なくて…あまりお気になさらず!

今後はこれ以上間を空けないように努力します!


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