彼方へ


第二部


「私はここに誓います。悪魔の息子となったドラクリアを果たす日まで…。」

ハロルド達聖騎士団が枢機卿に連れられ、法王の間にたどりついた時。

一人の老齢の騎士が法王ピウス2世の前にひざまずいていた。
彼の両側には先ほどの紳士と。もう一人剣をたずさえた黒髪の麗人がいた。
騎士は誓いの言葉を続けた。

「我が一族が天におわす門をくぐることはない。」


「!」


その言葉に、騎士の一人、マルクは身体を硬直させた。


ピウス2世は老齢の騎士、ヴァレリアス伯の誓いの言葉を神に捧げた。


「ヴァレリアス家に…神のご加護を。」


ヴァレリアス伯はゆっくりと立ち上がり深々と頭を下げた。
その姿は長きにわたるなか誇りをもっていた騎士のものだった。



「法王様、聖騎士団を連れてまいりました。」

枢機卿は法王の儀式が済んだのを見て声をかけた。
その声にヴァレリアス伯と、そして彼の両側に居た二人の男性が聖騎士団に視線を向けた。


「御苦労だった。
 では…ヴァレリアス伯はこちらへ。
 聖騎士団はガブリエル…そなたに任せよう。」
代表してピウス2世が答えると、彼はヴァレリアス伯を伴い、奥の間に姿を消した。
どうやらまだやるべき誓いの儀式が残っているようだった。

ピウス2世とヴァレリアス伯を見送った麗人…ガブリエルは聖騎士団の3人のもとに来た。


「聖騎士団の方たちですね。」
ガブリエルは静かに言った。

それに答えたのは…マルクだった。


「あんたが私たちについてくるっていう命知らずなのかい。」
「…マルク。」

強い態度のマルクを、ハロルドはたしなめる。

後ろに居たもう一人…ダスティも困った奴だなという顔をする。
だが、止めようとはしなかった。

マルクもダスティも、足手まといと命のやり取りに出向くようなことはしたくないのだから。


その気持ちを隠そうともしないマルクたちにガブリエルはひとつ、息を吐いた。

そして…態度を改めることにした。


「勘違いはしないでほしい。
 ついてくるのは君たちのほうだ。」

相手の答えに、マルクはあからさまに眉をひそめる。

「…なんだって?」

ガブリエルは言葉を続けた。

「はっきり言おう。
 君たちにして欲しいことは…「敵」の部下どもを殺すことだ。」

「な…!」

「…私たちではその「敵」を殺せない。
 貴方はそうおっしゃるのですか?」
激昂しそうなマルクの変わりに、ハロルドの冷静な声が響いた。

ガブリエルはハロルドの方に視線を向けると、言った。

「…それだけではないが…違う、とは言わない。
 君たちには殺せない相手だ。」


「…じゃあアンタなら殺せるわけ。」
ダスティもやや声を低く、不機嫌に言った。

マルクもダスティも、そしてハロルドも自分達の腕にはそれなりの自信がある。
その自分たちに、サポートをさせるというのだ。
この初対面の麗人が。

剣を握ったこともなさそうな腕で、自分達に倒せない相手を倒すという。


以前も、そんな根拠のない自信をもった男と組んだことがある。
だが、そのせいで彼らは大事な仲間を何人も失ったのだ。

だからこそ、この麗人の言い方には許せないものがあった。


マルクは言った。
「そんな金の剣で…何ができるんだ。
 高価なだけのものでは悪は倒せない!!」


そう、彼は金色の剣を携えていた。
貴族のような衣服、流麗な風貌、そして豪奢な剣。
その外見は戦うことに慣れているように、マルクたちの目には到底映らなかった。


だからこそ激しく怒りを覚えるのだ。


そして、マルクの怒りの原因はもうひとつ…。


「金…?」

ガブリエルは不思議に思ったが、次の瞬間納得する。


「ああ、この剣は……いや、説明するのは無為なことのようだ。」

ガブリエルはコツリ、と歩を進めると。

3人のなかのリーダー、ハロルドの前に立った。



「…君、相手を頼めるかな?」

ハロルドは少し驚き。
軽く笑って言った。

「私に…ですか?」

「なっ…!」

「いいんじゃない?」
驚くマルクに、ダスティは面白そうに言った。

ヨフィエルは少し眉をひそめるが、主人の行動を止めようとはしなかった。


彼らとともに戦いに行き、勝つためには最も効果的だった。



「…わかりました。」


ハロルドは、ガブリエルとの勝負を受けてたった。


「ハロルド!」

「気にするなマルク、すぐに終わる。」


ハロルドはやれやれ、といった表情でガブリエルに向かい合った。


そんな人間達を。
ヨフィエルは仕方のないことだと、見ていた。


(…確かにすぐに終わるだろう。
 ……ガブリエル様の剣の腕では…。)


「ダスティ、合図を頼む。」


「了解。」


ダスティも、すぐに終わると信じて疑っていなかった。


そしてハロルドは愛用の剣のうちの一本を。
ガブリエルは金色の剣を構えた。




一瞬、時が止まる。



そして。



「はじめ!!」



シュッ


ス…



「!!!!」





ハロルドは剣をおろそうとした姿勢のまま身体の動きを止められていた。

ハロルドの首筋にはガブリエルの剣先が突きつけられていたのだ。



それが、天界においてミカエルに次ぐほどの、ガブリエルの剣の実力だった。



                                   To be Continued…


久しぶりの長編です。
聖騎士団でばってますね〜。
ちゃんと従ってくれるようになるにはそれなりに理由がいるだろうなあと思って。
騎士団って…命令に逆らえないんじゃなかったのかという質問に関しては。
素人と一緒に行くのを拒否っている、というところで…。

今年中に第二部終わらせたいとか思ってますけど…無理だろうなあ…。


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