強く儚い者たち


19


試合は9回裏。
十二支のピッチャーの崩れにより、4点を取り返した。

「9回裏3−4
 十二支高校最後の攻撃です。
 4番ライト 牛尾くん。」



かつてのライバルの対戦となる。
直接対峙するのは3年ぶり。


負けるつもりは両者ともありはしなかった。
自分の道をまげないためにも。


そして・・・。



「”野球には奇跡も偶然もない”
 これはキサマの言葉だったな。」
「ああ そうだったね。」

「屑桐…もう一言いっておきたいことがある。」

「試合中の無駄話は好まないはずではなかったのか?」


「…猿野くんの事だ。
 これ以上…彼を悲しませないでくれ。」

ライバルの口から出てきたのは、誰よりも大事な名前。

「知った口を利くな…。
 キサマには関係ないことだ。」

「関係なら、あるよ。
 僕は彼を愛しているんだ。
 愛するものを傷つけられて…黙ってるわけにはいかないからね。」

愛するもの、と牛尾ははっきりと口にした。
それは屑桐の激情をこの上なく刺激する一言だった。


「キサマには…天国は渡さない。
 いや…誰であってもだ!!!」

搾り出すような答えだった。
牛尾にとっては…予想された、むしろ唯一と思われていた答えだった。

この答えを屑桐から導き出す事が


自分にとって天国に出来るただ一つの事だったのだ。



(…君のために…猿野くん…。)



「ストライク!!バッターアウト!!!」


「…屑桐。これ以上彼を離すな。
 今猿野くんを救えるのは…君だけだ。」

「キサマなどに言われるまでも無い…。」



もう 決めていたのだから。



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9回裏。のこるバッターは後二人となった。
主将牛尾を抑えられ流石に十二支側ベンチは意気消沈となっていた。

(…ここまでか。)
精神を折られたプレイヤーは弱弱しいものだ。
それは屑桐自身の経験から確信を持っていえることだった。

十二支の心も折れる寸前のように見えた。

しかし。
「テメーら何ショボくれてんだよ!!
 試合はまだこっからだろーがよ!!!」


(天国…。)


折れた心を天国が確実に立て直していった。


「…全く。」


明美の強さを大きく受け継いでいた。



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「次は5番ファースト 虎鉄くん」

あと二人。
次のバッター、虎鉄と、天国のみ。


虎鉄がバッターボックスに入ると、天国はフェンスの後ろに入った。


(ほう…そこから見て攻略するつもりかのお。)
「ブハハハまさに鼠じゃのう。
 まあ好きにしとれ。
 屑の字の球はそんな事で攻略されるヤワなもんじゃねぇ。」

(天国…。)

見ていろ。
そこで。そして次はオレの前で。


「…。」
天国は屑桐の思いに答えるかのように、じっと屑桐の姿を見た。


そして第一球が投げようとされた。
(来たKa これが トルネード。)

(まず上体をこれでもかったほどねじりにねじる…。
 そしてねじった力の反発を利用して。)


ドゴォッ


虎鉄は何球も粘る。


天国は必死で理解しようとしていた。


「く…っ。」


(猿野…早く頼むZe。
 この超スピードでまともなスイングなんて出来やしねえ…。
 バットを合わせていくのが精一杯Yo。)



「どうだ…天国何か掴めたか?」
「さっぱりだよ。」

「雨も降ってきたしこのまま台風にでもなって試合中止になってくんねーかな。」
「台風ねえ…。台風の目にでも入れば雨も風も治まるがな。」
「台風の目…。」

「ってか、天国。屑桐さんの球ならお前昔見てたんじゃねーの?」
「つってもよ・・・。3年も前の事…。」


(あ…。)



『うわー、はっや〜。』
『ホント、マジ凄いじゃない。』
『これじゃ無涯の球なんて誰も打てないよね、明美。』
『あ、でも無涯の投げ方ってさ…。』

あの時、明美が言った言葉。

『…よね。』




「ああっ!!!」





「どうした天国?!」


ズドォッ
「ストラーイク バッターアウト!!」




「天国?」


「思い出した…。」





決着の時が 来た。
                                 To be continued…


ほぼ2ヶ月ぶりの19話目です。
…あと2〜3話くらいかな?
犬飼君と芭唐君のエピソードは申し訳ないですけどすっとばしました。
関係させられないんで・・・。ああ、あのシーン好きな方ごめんなさい。
この話は屑猿ですので・・・。(涙)

ではでは、今日はこの辺で…。


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