強く儚い者たち


21 (前編)



ガギイイィイン

「!!」


天国の打った球は高く上がる。
「いった〜〜!!」


「…いかん。」


しかし高く上がりすぎたのだ。
天国の打球は思ったよりは伸びていったが。



「…っ。」


打球はショートの久芒が足技を利用し屑桐の元へと蹴り上げた。


バシッ


屑桐は打球を受け取る。


そして。


「アウト!!ゲームセット〜!!」


試合は華武校の勝利で幕を閉じた。



##############


「あれ?兄ちゃんは?!」

試合を終え、制服に着替え終わり、打ち上げに向かおうと十二支の面々が腰を上げたその時。
天国の姿はなくなっていた。

その事にいち早く気づいていたのは、沢松と、そして牛尾と蛇神だった。


「ああ、猿野くんは大事な用があると言っていたよ。
 だから先に帰ったようだね。」
「え〜〜!!??」
兎丸をはじめ一年や二年のメンバーが残念な表情を見せる。
負けたにせよ、今日の試合で一番と言っていいほど活躍したのは天国である。
その天国が居ないのは、納得いかなかった。


だが、牛尾は天国がどこへ行ったのか知っていた。
それがどういう意味を成すものであったのかも。
だから、牛尾は皆を納得させ、その場を天国を置いて去っていくようにしたのだった。

沢松は牛尾の気持ちに感謝して、天国に思いを馳せていた。

(天国…。)


屑桐さん どうか あいつを。



ただそう思って。


######


その頃、天国はトイレにてチームメイトたちが去っていくのを確認した。

約束があったから。


そして、天国はグラウンドに向かう。

あの場所に、と言っていたが。


グラウンドで。彼が昇っていたマウンドで。
そこで待つ事を天国は無意識のうちに選択していた。


流石にまだミーティングでもしているのか、グラウンドにはあまり人影は見られなかった。
天国はふ、とため息をつきマウンドにしゃがみこんだ。


#########

その頃。華武野球部の部室では。


「アレ?あいつさっきの…。何でまだいる気?(?。?)」
「あ〜あ、何か3軍ともめてるングよ。」

久芒と朱牡丹が天国の姿に気づくと、それに便乗して御柳もグラウンドに視線を向ける。

「あらら。…いーんですか?屑桐さん。」
御柳はあの猿のような1年が屑桐と何らかの関係があることを薄々感じていた。
だからここで屑桐が何らかの反応をするであろうことも予測していたのだ。
御柳としては、いつも沈着冷静な屑桐がどのような反応を見せるのか、そこに非常に興味があった。
そしてあの1年との関係も。

そんな御柳の言葉に対し、屑桐は。


「……。」
着替えを終え、無言で部室を去っていった。

「あれ?屑桐さん、ミーティングは?!」
「…今は何言ってもムダっすよ。先輩。」


「何で?」


「あの人、今アイツしか見えてないみてーっすから。」


御柳がクスクスとおかしげに笑う姿を見ながら、朱牡丹と久芒は驚愕の色を隠せなかった。




############

グラウンドでは、一人残っていた天国に3軍(先程の2軍)が3軍に落とされた苛立ちをぶつけるように天国に絡んでいた。
「てめ、十二支の!!」
「何でこんなとこに残ってんだよ!!とっとと…。」

「………。」

そこに、着替えを終えた屑桐が無言で姿を現した。
当然、3軍の面々は突然現れた主将の姿に驚く。

「く、屑桐さん!!」
「すいません騒がせてっ!こいつがグラウンドに居たモンで・・・。」
「す、すぐ追い返しますから!!」


「その必要は無い。」

屑桐は一言で3軍を諌めると、天国と向き合う。

「待っていたのか、天国。」

「無涯…。」

「ヤツらとは帰らなかったんだな。」

「約束だから…。
 話、あるんなら早くすませてくれ。」

天国は俯き、そっけなく答える。
しかしその声は微かに震えていた。

「分かった。…来い。」

屑桐は天国の手を取ると、戸惑う華武の面々を尻目に、その場を去って行った。


あの公園に。昔よく遊んだあの場所に。

最後に明美を見たあの場所に。


#############


屑桐の、そして天国が以前住んでいた家の程近くの公園にたどり着くと、屑桐は口を開いた。


「天国…オレを許せないか?」
天国に背を向けたままで吐き出される言葉には、苦しさが満ちていた。

天国は答える。
「無涯……オレ、ずっとあんたが悪いと思ってた。
 …思い込もうとしてたよ。そうやってあんたから、明美からずっと逃げてた。
 でもオレが本当に許せなかったのは…オレ自身だった。」

「天国?」

屑桐は振り返り、天国の顔を見る。
天国は無意識のうちに涙をこぼしていた。

「オレは…オレ自身が許せなかった。
 明美を裏切って…裏切ったままでいるオレが。」

屑桐は天国の言葉に違和感を感じていた。
「明美を裏切った…だと?
 お前は何度かそう言っていたが…。
 何故お前が明美を裏切った事になる?
 明美を裏切った俺を許せないのではないのか?」

「違う…っ。
 あの時、オレは無涯にキスされて嫌じゃなかった…。
 無涯が、明美じゃなくてオレにした事が嬉しかったんだ。
 あんたは明美の彼氏になってたのに、オレはあんたが好きだったから!」

(天国?)
今こいつは何て言った?
オレを…好きだと?

屑桐は天国の告白に驚きながらも、天国の叫びを聞いていた。

「明美の好きな人を…奪ったままで明美は…っ!」

 
「違う!!」


「!!」

天国が思い悩んでいた事は。

明美の愛していたのが屑桐だと思い込んでいたことにあった。



「天国、お前は明美を裏切ってなんていない!
 明美が好きだったのはオレじゃない!!お前だけだ!!」



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今回2部構成です!
続きをどうぞ。


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