強く儚いものたち
7
「明美…、聞いてるのか?」
何言ってるの?
無涯が?私を?
…バカだよ。
「返事を、してくれないか?」
屑桐は焦ったように答えを求めた。
本気でバカだよ、あんた。
今のあんたの目…
天国を見るときの眼だよ?
「…いいよ。明日っから恋人だね。」
明美はあっさりと答えた。
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「えーーーーーーっ??!!」
「無涯君と恋人になった???!!!」
案の定、猿野家の両親はいきなりの事にとんでもなく驚いた。
無理もない。
今朝まではそんな気配は全く見せていなかったのだから。
父も母も、娘が一気に大人への階段を上ろうとしている様に感じ、驚きと戸惑いで一杯だった。
一方、天国はというと。
「そっか…。」
と、一言つぶやいて部屋に行った。
(天国…。)
明美は部屋に上がる弟の背中を見つめた。
切ない想いを一杯に込めて。
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「明美と…無涯が、恋人…かぁ。」
天国は部屋で一人つぶやいた。
正直なところ、恋人という関係がまだ具体的には分からなかった。
去年まで小学生だったのだから、無理もない事ではあったが。
ただ、二人に共有する、自分の入れない関係が出来たことは何となく察する事ができた。
今の天国を支配していたのは、はっきりとしない戸惑いと、心の奥底に生まれた漠然とした喪失感だった。
そんな気持ちの中。
天国はノックの音を聞いた。
「天国?」
「明美…?」
明美だった。
天国はいつも通りに振舞わなければいけないような気がして、すぐにいつものように部屋を開けた。
「何?」
「ふふーん。あんたが寂しがってんじゃないかな〜と思ってね。」
突然図星をさされ、天国は赤面した。
「そ…っそんなの…!」
「あるんっしょ?」
にこっと微笑む明美。
その微笑みは、いつもの明美そのままで。
優しい双子の姉さんのものだったので、天国は少し楽な気持ちになった。
「あのねー。あたしと無涯の事だけど、あんたが変な気遣いすることはまっっったく!ないんだからね?」
「え…でも、明美、無涯と二人でいるほうがいいんじゃないのか?」
「バッカねー。たとえ恋人だろーと私と天国の間を避ける奴はいないわよ?」
がしっと肩を組み、にかっと明美は笑った。
明美は、今までどおりでもいいと言ってくれるのだ。
それが天国には嬉しかった。
「サンキュ…明美ねーちゃんv」
嬉しくて、少し涙がこぼれた。
それを隠すことなく、天国は明美ににっこりと笑いかけた。
そして、新しい日々が始まろうとしていた。
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(これで、良かったんだ…。)
屑桐は明美に告白してから、一人でロードワークに向かっていた。
いつもは夜中に行くのは控えていたが、今日は独りになりたくて。
家では兄弟が多いから、なかなか一人になれなかった。
でも、今日はどうしても独りになりたくて、家を出た。
先刻、明美に告白した。
強すぎるほどの焦燥にかられて。
(天国…っ。)
屑桐はいつも来る川原に腰掛けると、自分の唇に触れた。
無意識のうちに触れていた、天国の唇。
考えた事もないほど甘くて…いとおしかった。
けれど。
(天国は…男だ。そして、オレも…。)
たった一つの、しかし絶対的な壁があったこと。
そして、明美にもたった一つの絶対的な壁があったこと。
それだけが。
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「屑桐さん!!」
「あ…。」
気がつくと、黄昏時。
1年生が部活の片付けをしていた。
「またボーっとしてたんすか?」
「…放っておけ。御柳。…悪いが、今日は先に帰る。」
「……監督サンどーするんすか。後で来いっつってましたけど。」
「…オレは腹痛だ。」
それだけ言うと、足早に去っていった。
「…納得するわけねーんじゃねえっすか…。」
明日以降の監督のキレ具合を想像して、少なからず寒気を覚える御柳だった。
華武高校の部活が終わり1時間もした頃、ある寺に屑桐の姿があった。
「明美…久しぶりだな。」
学校を去った屑桐が向かったのはかつての恋人のところだった。
To be Continued…
場面転換ばっかりで非常にわかりにくい第7話でした…。
なんでか現在に戻ってきちゃいましたね…。
さて、次は…3人の静かなる崩壊…かもしれません。(笑)
期待はしないでくださいねv(おい!)
ではでは。
眼に見えてあとがきがおざなりになっていく青沢でした。
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