強く儚いものたち








「明美…、聞いてるのか?」



何言ってるの?

無涯が?私を?



…バカだよ。


「返事を、してくれないか?」
屑桐は焦ったように答えを求めた。

本気でバカだよ、あんた。


今のあんたの目…



天国を見るときの眼だよ?




「…いいよ。明日っから恋人だね。」


明美はあっさりと答えた。


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「えーーーーーーっ??!!」
「無涯君と恋人になった???!!!」

案の定、猿野家の両親はいきなりの事にとんでもなく驚いた。
無理もない。
今朝まではそんな気配は全く見せていなかったのだから。
父も母も、娘が一気に大人への階段を上ろうとしている様に感じ、驚きと戸惑いで一杯だった。

一方、天国はというと。

「そっか…。」
と、一言つぶやいて部屋に行った。

(天国…。)
明美は部屋に上がる弟の背中を見つめた。
切ない想いを一杯に込めて。


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「明美と…無涯が、恋人…かぁ。」
天国は部屋で一人つぶやいた。
正直なところ、恋人という関係がまだ具体的には分からなかった。
去年まで小学生だったのだから、無理もない事ではあったが。

ただ、二人に共有する、自分の入れない関係が出来たことは何となく察する事ができた。

今の天国を支配していたのは、はっきりとしない戸惑いと、心の奥底に生まれた漠然とした喪失感だった。



そんな気持ちの中。
天国はノックの音を聞いた。


「天国?」
「明美…?」

明美だった。
天国はいつも通りに振舞わなければいけないような気がして、すぐにいつものように部屋を開けた。

「何?」
「ふふーん。あんたが寂しがってんじゃないかな〜と思ってね。」

突然図星をさされ、天国は赤面した。
「そ…っそんなの…!」
「あるんっしょ?」
にこっと微笑む明美。
その微笑みは、いつもの明美そのままで。
優しい双子の姉さんのものだったので、天国は少し楽な気持ちになった。


「あのねー。あたしと無涯の事だけど、あんたが変な気遣いすることはまっっったく!ないんだからね?」
「え…でも、明美、無涯と二人でいるほうがいいんじゃないのか?」
「バッカねー。たとえ恋人だろーと私と天国の間を避ける奴はいないわよ?」

がしっと肩を組み、にかっと明美は笑った。

明美は、今までどおりでもいいと言ってくれるのだ。

それが天国には嬉しかった。

「サンキュ…明美ねーちゃんv」
嬉しくて、少し涙がこぼれた。
それを隠すことなく、天国は明美ににっこりと笑いかけた。




そして、新しい日々が始まろうとしていた。



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(これで、良かったんだ…。)

屑桐は明美に告白してから、一人でロードワークに向かっていた。
いつもは夜中に行くのは控えていたが、今日は独りになりたくて。

家では兄弟が多いから、なかなか一人になれなかった。


でも、今日はどうしても独りになりたくて、家を出た。



先刻、明美に告白した。


強すぎるほどの焦燥にかられて。




(天国…っ。)


屑桐はいつも来る川原に腰掛けると、自分の唇に触れた。

無意識のうちに触れていた、天国の唇。
考えた事もないほど甘くて…いとおしかった。


けれど。


(天国は…男だ。そして、オレも…。)
たった一つの、しかし絶対的な壁があったこと。


そして、明美にもたった一つの絶対的な壁があったこと。



それだけが。



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「屑桐さん!!」
「あ…。」


気がつくと、黄昏時。
1年生が部活の片付けをしていた。

「またボーっとしてたんすか?」
「…放っておけ。御柳。…悪いが、今日は先に帰る。」
「……監督サンどーするんすか。後で来いっつってましたけど。」

「…オレは腹痛だ。」
それだけ言うと、足早に去っていった。

「…納得するわけねーんじゃねえっすか…。」

明日以降の監督のキレ具合を想像して、少なからず寒気を覚える御柳だった。







華武高校の部活が終わり1時間もした頃、ある寺に屑桐の姿があった。




「明美…久しぶりだな。」

学校を去った屑桐が向かったのはかつての恋人のところだった。

                                         To be Continued…

場面転換ばっかりで非常にわかりにくい第7話でした…。
なんでか現在に戻ってきちゃいましたね…。
さて、次は…3人の静かなる崩壊…かもしれません。(笑)
期待はしないでくださいねv(おい!)

ではでは。
眼に見えてあとがきがおざなりになっていく青沢でした。                                

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